併設店舗では企画に関連した限定菓子や雑貨などが販売され、売り上げにも貢献している。

「日本列島は南北に長く、それぞれの土地で培われた多様性に満ちた文化があります。ギャラリーでの展示を通じて、広い意味での日本文化についても紹介していけたらと思っています」

●餡文化衰退への危機感

 端正な丸い最中の皮に、レーザーであけた北斗七星が並ぶ。小豆、大豆、白インゲン──瓶から自分の好みの餡をつけて食べるのが「ぎんざ空也 空いろ」の新作「ななつほし」だ。スタートから6年目のこの秋、パリにオープンする三越伊勢丹でも販売される。

 空也といえば130年の歴史を持ち、夏目漱石の『吾輩はである』にも登場。多くの文化人、著名人に愛されてきた「空也最中」で知られる銀座の名店だ。今でも事前に予約をしないと買えない人気だが、規模を大きくすることなく、昔ながらの商いを守っている。しかし、空也の5代目、山口彦之さんが「空いろ」を始めたのは、危機感からだった。

 あるデパートの和菓子催事のアンケートで、お客さんの40%が「ようかんを食べたことがない」と答えていたのを知る。

「このままでは餡の文化は衰退する」と新しい切り口で和菓子の魅力を伝えたいと考えた。それは、餡を「豆のジャム」として提案することだった。

「空也は守りの店と思われがちですが、結構攻めてきました。祖父は戦後、上野から銀座へ店を移し、父は餡を練る釜にIHを導入した。僕も、和菓子の魅力を日本と世界に伝える挑戦ができればと思っています」

 今回の取材で感じたのは、和菓子舗が共通の危機感を抱えているということだった。たとえば、いつでも好きなものが買える「コンビニ文化」のなかで失われる季節感であり、当たり前だった生活文化や職人仕事が消えていくことへの懸念だ。

 和菓子は、季節を大切にする。時期を外すと食べられないものもある。それを「文化」ととるか「不便」と思うのか。和菓子がどこまで愛されるのかは、私たちが日本の文化の粋を残し、世界に伝えられるかにかかっている。(ライター・矢内裕子)

AERA 2016年10月17日増大号