●「陛下の真意ではない」

 23年にわたって宮内庁に勤務し、現在はBSジャパンの「皇室の窓」の監修などを務める山下晋司氏は、「天皇自身の意思」という観点からも、

「特措法によって一代限りの生前退位を認めるのは陛下の真意に沿ったものではありません」

 と訴える。天皇自身が、

「象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ」

 と語っていることから、

「陛下はご自分だけの生前退位を望んでおられるわけではない。一代限りの特措法だけで今後の見通しが立たなければ、何らかの方法で再度『お気持ち』を表明されるかもしれない」

 と見ている。

 政府が特措法での実現を目指すのは、皇室典範の改正となると、議論が長期化してしまうと懸念しているからだ。皇室に詳しい静岡福祉大学の小田部雄次教授(日本近現代史)は、

「とにかく陛下に早くお休みいただくという意味では、特措法制定に反対はしない」

 という立場。ただ、皇室典範の改正なしで可能かどうか、疑問が残るという。

「高齢の現状を述べる自由もなければ、発言の自由もない現在の天皇陛下の状況を変えなければいけない」(小田部教授)

 憲法は国民の基本的人権を認めているが、天皇は高齢で心身の負担が大きくなっても譲位できない。前出の木村教授は言う。

「生前退位を認めることも必要だが、皇位継承を男系男子に限ることで天皇家にかかるプレッシャーは大変なもの。天皇陛下の幸せや人権を考えていかないといけない時期にきている」

 政府は、有識者からなる会議を立ち上げ、専門家を招いて意見を聞いたうえで、早ければ来年の通常国会にも、生前退位実現のための特措法案を提出する考えだという。(編集部・深澤友紀)

AERA 2016年10月3日号