「これらが影響を与え、昭和天皇の言葉が、今回の天皇の言葉に受け継がれた箇所がいくつかあると思っている」

 その一つが、天皇と国民の関係について語った部分だ。

 玉音放送にはこうある。

 常ニ爾臣民ト共ニ在リ……

 今回の「お言葉」でも、天皇の務めについて述べた文脈のなかにこんな一文がある。

 常に国民と共にある自覚を自らの内に育てる必要を感じて来ました

 結びでも、現天皇は言う。

 これからも皇室がどのような時にも国民と共にあり……

●私の意をよく理解して

 大日本帝国憲法下における天皇と臣民、日本国憲法のもとでの天皇と国民はそれぞれ異なる存在で、関係性も違う。帝国憲法下の天皇が「統治権の総攬者」だったのに対し、新憲法下では「国民統合の象徴」で、主権は国民のものだ。それなのに、両天皇は「国民と共にある」という共通の理想を掲げている。原氏はこう解説する。

「昭和天皇は『朕ハ茲ニ国体ヲ護持シ得テ忠良ナル爾臣民ノ赤誠ニ信倚シ常ニ爾臣民ト共ニ在リ』(私は、ここにこうして、この国のかたちを維持することができ、忠義で善良なあなた方国民の真心を信頼し、常にあなた方国民と共に過ごすことができる)という言葉で、国体の中核とは『君民一体』を指すと強調している。そこにあるのはあくまで天皇と臣民の関係であって、政府や議会などの機関については語られていない。天皇は直接、臣民に向けて語りかけているのです」

 同様の語りかけはまだある。

 玉音放送では、国家再建に向けた思いを語る最後段で、

 任重クシテ道遠キヲ念ヒ総力ヲ将来ノ建設ニ傾ケ道義ヲ篤クシ志操ヲ鞏クシ誓テ国体ノ精華ヲ発揚シ世界ノ進運ニ後レサラムコトヲ期スへシ
(任務は重く道のりは遠いと自覚し、総力を将来の建設のために傾け、踏むべき人の道を外れず、揺るぎない志をしっかりと持って、必ず国のあるべき姿の真価を広く示し、進展する世界の動静には遅れまいとする覚悟を決めなければならない)

 と述べ、こう続ける。

 爾臣民其レ克ク朕カ意ヲ体セヨ
(あなた方国民は、これら私の意をよく理解して行動してほしい)

 これに対し現天皇は、

 これからも皇室がどのような時にも国民と共にあり、相たずさえてこの国の未来を築いていけるよう、そして象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ、ここに私の気持ちをお話しいたしました

 と語り、最後に訴えた。

 国民の理解を得られることを、切に願っています

「玉音放送の『世界ノ大勢』『時運ノ趨ク所』といった言葉に呼応するように、現天皇も『日々新たになる日本と世界』といった言い回しを使っている。勢いやなりゆきといった共通した意味を反映した言葉です。天皇が公的に発する言葉のボキャブラリーが限られていることを踏まえれば、現天皇は玉音放送を意識しながら『お言葉』を組み立てたのではないかと推察できます」(原氏)
 昭和天皇と現天皇の言葉を比べることで浮かび上がったのは、国民と一体となることを呼びかける一貫した姿だった。

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