●主要メディアに「宣戦」

「いろんな情報を集めて、正しい候補者を選びたい」

 7月下旬、中西部オハイオ州クリーブランド。共和党大会の会場近くで開かれた保守強硬派の集会に来ていたアフリカ系米国人のケネス・レイン氏(54)は、筆者の取材にそう話した。では、どんなメディアに接しているのかと聞くと、ブライトバートや、右派サイト「インフォウォーズ」と運営者のラジオパーソナリティー、アレックス・ジョーンズ氏の言説だという。トランプ氏の支持者の多くが、もはや中立性やジャーナリズムにこだわる大手メディアを全く相手にしておらず、右派メディアを「主要」と捉えている。

 トランプ氏は8月15日、支援者への一斉メールで、主要メディアへの「宣戦布告」も行った。

「主要メディアがつねに、(保守派の)共和党をやり込めようとしてきたのは知っていた。しかし、この選挙戦を通して、いかにメディアが偏向していて、不誠実かがはっきりわかった。メディアのやりたい放題にはさせておけない。われわれの選挙戦では、やり返すんだ」

 逆に、トランプ氏を支持するブライトバートや「ドラッジリポート」などの右派サイトを読むよう、支持者に訴えた。

 有権者に正しい情報をもたらそうと努力する主要メディアをこきおろし、支持者が喜ぶ「陰謀説の天国」(ニューヨーク・タイムズ)だけを相手にする。そんな人物が、世界最大の民主主義国家の大統領候補になっている。仮に本選挙で敗れたとしても、どんな「負の遺産」を残すのだろうか。(ジャーナリスト・津山恵子)

AERA 2016年9月5日号