「IOCの方針では、街中にバナーを掲げて五輪の雰囲気をつくり出し、その美しい映像や写真を未来に残したいと思っていますが、今大会はそれが難しい」

 ほかに竹内さんが、予算削減のあおりを受けて大会運営にも影響が出ていると指摘するのが交通だ。選手や大会関係者、メディアなど数万人がさまざまな場所から場所へと動くため、大量のバスと運転手が必要で各地からかき集める。地理に不慣れな運転手も多く、研修などが十分でないからか、道を間違えたり、日によってコースを変えたりするなどして利用者を混乱させてしまう。

●ボランティアも不足

 開会式の日も、私が乗ったバスは、会場のマラカナン・スタジアムの周囲をぐるぐる走り、一部の乗客が窓をたたいて「ここで降ろせ」と怒り出した。ラグビー場へは射撃場を経由して行くはずなのに、勝手に経由地を変更して、終点として射撃場に降ろされてしまったことがある。他にも競泳選手を乗せたバスがプール(Aquatics)と間違えて、陸上競技場(Athletics)へ行ってしまい、競技開始時間が1時間半も遅れたケースもあった。

 運転手が道に不慣れな場合、過去の大会では地元から参加しているボランティアが一緒に乗って道案内してきたが、リオ大会では予算カットはボランティアの削減にも及んだ。当初は五輪とパラリンピック合わせて7万人を募集していたが、最終的に5万人になった分、人員に余裕がなくなったのだろうか。

 会場は電気工事などがぎりぎりまで行われていたところもあるが、大きな問題は起きていない。ただ「最低限」という印象は否めない。天井の多くは配管がむき出しで、廊下も白やグレー一色で殺風景。ビーチバレーの会場や各地の歩道橋などは工事現場の足場のよう。完成なのか、それともまだ途中なのか、心の中で突っ込んでしまう。

 仮設といえば、オリンピックパークに隣接するバスターミナルの看板。紙に印刷したものを板に貼り付けていたが、なんと大会9日目の朝、緑の板に印刷したおしゃれな看板になっていた。このときは、「いまさら?」と笑いが止まらなかった。

●日本の最新技術の活躍

 オリンピックパークの端には、MPC(メインプレスセンター)があり、世界各国から取材に訪れている新聞社や通信社、雑誌社などがここで作業をする。MPCは、3階より上は各メディアが場所を借りてオフィスのように使うプライベートスペースだが、2階はオープンスペースで自由に使える。

 歩いていると見慣れた会社のロゴを掲げたブースを発見した。ニコンだった。聞くと、カメラやレンズの修理、クリーニング、最新機材の貸し出しなどすべて無料で行っているという。ニコンでは五輪と世界陸上で毎回こういったサポートをしていて、今大会は1日あたり約35人が2交代制で常駐している。リオに運び込んだ機材の総額を尋ねると、「家が何軒も建つぐらい」(同社・星勝広さん)とのこと。同社としては、機材を気に入ってもらい、帰国後に購入してもらえたらという期待もあるが、ユーザーの声を吸い上げられるチャンスというメリットもある。最近の例では、そうした声がきっかけで、暗い場所でもレンズ交換がしやすくなるよう、印を光らせたり、立体的にしたりした。

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