「ある政党に所属する先生たちは授業で『選挙では自の付く政党に入れないでくれ』と生徒に話している。そうした事例が全国であるというのは、党内ではなかば常識になっています」

 こうした自民党の動きを、教育現場の教師たちはどう見ているのか。アエラがネットで行ったアンケートでは、339人の現役・元教師から回答があり、「プレッシャーを感じることがある」人と「感じない」と答えた人がほぼ半数で割れた。

●「波風立てたくない」

 東北地方の中学校で社会科を教える40代の教員はこう話す。

「自民党のホームページを見て『嫌だな』と思いました。授業で政治を話題にしづらくなった。だけど『波風立てたくない』とも思ってしまう。公務員って、そうじゃないですか。自民党は、そこらへんがうまいと思う」

 新潟市内の元教師(73)は、調査に強く反発する。

「教育現場で、教師が生徒に偏った考えを押しつけているという見方こそ、現場を知らない国会議員の思い込みです。生徒には、そういう教師を見抜く力がある。問題の原因は偏向した教師にあるという論法が、教師に対する保護者の不信感を増幅させ、現場を混乱させている」

 教育現場から聞こえる萎縮と反発の声。ただ、萎縮の空気は、一足早く現場に浸透しつつあったという指摘もある。
 三重県内の県立高校には昨年、授業で安保法制を取り上げたかどうか、県教育委員会による調査が入った。県教委はその結果、県内の約60校のうち7校で関連の授業が行われたことを把握したという。調査が行われたことは県議会でも取り上げられた。

 同県内の50代の男性高校教師は、調査とは別に校長に呼び出され、「あんた、えらい授業してるんちゃうか」と尋ねられた。

「私に言わせれば、国や安全保障のあり方を変える問題について、7校しか取り上げないほうがおかしいと思う。しかし、政治的に中立な授業をしていても、いちいち説明を求められれば、面倒は避けたいという心理が働く。自民党の調査は、三重で起こったことを全国に拡大しようとしたのではないか」

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