●政治信条を教える先生

 一方で、自民党の調査を肯定的に受け止める教師もいる。

「授業で自分の政治信条を教える先生は昔からいて、疑問に思っていた」

 そう語るのは、神奈川県の高校で社会科を教える男性教師(53)。指導法などの質を上げるためにも、教育現場はもっと社会に開かれるべきだと考える。

「教師向けに公開する研究授業などと同じように、外部からの目線という意味で、自民党の調査も受け入れざるを得ない側面があるのではないか」

 また、兵庫県内の中学校の男性教師(37)も、こう話す。

「組合に入っている一部の年配の先生は、イデオロギーを前面に押し出した授業をしているらしく、保護者から指摘されたことがある。授業内容の中立性を確保するには本来は教育委員会の役割も大きいと思うが、消極的。自民党が調査をしなければいけない状況があることが問題ではないか」

 現在、自民党の投稿フォームは閉じられ、党文部科学部会は今後、集まった事例を検証していく。なかには公職選挙法に違反すると思われる事例もあり、一部は文部科学省などに情報提供して対応を求めるという。

●教師への罰則も検討

 自民党の国会議員秘書によると、今回の投稿フォームは、党文部科学部会の傘下にあるプロジェクトチームが5月にまとめた提言に基づいて開設された。

 提言では「学校教育における政治的中立性の確保」に向けて、さらにいくつかの方策を示しており、「教育公務員に罰則規定を設けることの更なる検討」も含まれる。教員の政治的行為に対して、懲役などの刑罰の適用も視野に入れるとの内容だ。

 党文部科学部会で副部会長を務める宮川典子衆院議員によると、法改正は党内の議論で見送られた経緯があるという。

「やろうと思えば、参院選前でも法改正はできた。しかし、教師を罰則で縛るのは、子どもたちをルールで縛って言うことを聞かせることと同じ。それはやるべきではないとの意見があり、そのうえで党として結論を出した。こうした議論もあり、投稿フォームを開設して、まずは実態を把握したいという考えが出てきたのです」

 法改正には、弁護士の伊藤真氏がこう釘をさす。

「刑罰を科すには、その要件が明確でなければならないことが前提です」

 教育基本法は、第14条で政治教育について「政治的教養は、教育上尊重されなければならない」(第1項)と定めている。なのに、教員の政治的行為に罰則が設けられれば……。伊藤氏はこう警鐘を鳴らすのだ。

「教育基本法に基づく政治教育が、処罰の対象になりかねない。権力が罰則をもって教育現場に介入することは脅しでしかない。そうなれば、先生と子どもたちが人格や心を触れ合わせる本来の教育ができなくなってしまいます」

(編集部・宮下直之)

AERA 2016年8月22日号