完成在庫には、住友不動産や三井不動産、三菱地所、阪急不動産などの大手が開発したマンションも含まれる。「プラウド」のブランドで知られ、完成前後になると大幅な値引きも含めて販売活動を活発化させると言われる野村不動産の物件さえも売れ残っているという。

●年収1500万円必要

 なぜ、世田谷区でこうした現象が起きているのか。理由は簡単。あまりにも価格が高くなりすぎているからだ。

 日本銀行による「異次元金融緩和」の影響もあり、2013年ごろから首都圏の新築マンション販売は好調に推移。価格も上昇し始めた。決定打は、14年10月末の金融緩和の第2弾。これで、東京都心を中心に不動産市場は一気にバブル化した。いち早く価格が高騰したのは港区や千代田区、それに五輪開催決定で沸いた湾岸エリア。富裕層の相続税対策や、円安による外国人の「爆買い」もあり、高騰したマンションが飛ぶように売れた。

 世田谷区は、こういった投機、投資とはやや距離を置く「住むために買う」実需層が中心のエリア。しかし、目黒区や品川区、杉並区といった他の実需エリアに先駆けて「都心バブル」の影響をいち早く受けてしまった。

 アベノミクス以前の世田谷区の相場は、坪単価300万円が上限水準だったが、今は400万円を超える。これは3LDK・70平方メートルの新築マンションが約8500万円になる計算だ。この価格のマンションを買うには世帯収入が年1500万円以上は必要とされる。庶民に手が出るレベルではない。

 完成在庫の増加は、大阪府、京都府など近畿圏でも表れつつある。世田谷区の現象は、堅調だった新築マンション市場の潮目が変わる「予兆」なのかもしれない。(住宅ジャーナリスト・榊淳司)

AERA 2016年8月15日号