彼女だけではない。女性芸能人には、一挙手一投足がバッシングを浴びる人がいる。いくつか例を挙げるなら、矢口真里、辻希美、藤原紀香、紗栄子だ。彼女らに共通するものは、高度な専門性、突出した存在感が「ない」点だ。

「消費者から『この人は自分とそう変わらないはずなのに』という認識をされると、エンビーが発生しやすい」(千田さん)

●許せない、でつながる

 なぜ日本社会はエンビーがたまりやすいのか。千田さんは二つの視点から見る。女性に限って言えば、働き方やライフスタイルが多様化したことから、互いに終わりなき闘争に陥っている可能性がある、と言う。「既婚か未婚か。正規か非正規か。子どもがいる、いない。共働きか専業主婦か」。「差異」が無数に生まれ、エンビー蓄積の原因になり得るのだ。

 次は性差を超えた論点だ。

「富裕層から貧困層まで、すべての人が不安定な現実を生きている」(千田さん)

 社会や経済環境が目まぐるしく変わるいま、長期的なビジョンを描ける人は多くない。競争に勝てるのか? 働き続けることはできるのか?

「不安定な個人」が大量に生まれた傍らにエンビーという甘い毒がある。化学反応が起きた時が炎上だ。

 千田さんは、そんな現象の原形を、「郵政選挙」(2005年)の公務員バッシングに見る。

「既得権益者が非効率を温存している」と、郵便局員を攻撃したのは、政治家、企業経営者、管理職。そして非正規雇用者たちだ。社会的地位、収入面でバラバラな集団が「公務員、許せない」の一点でつながった。

「社会学で『準拠集団』と呼びます」(千田さん)

 準拠集団による炎上加担。その内実は何か。

●炎上加担者はごく少数

 ウェブメディア「ビジネス+IT」によれば、国際大学GLOCOMの研究チーム、田中辰雄さんと山口真一さんが注目すべき調査結果を導き出している。

「個人情報をさらしあげ、制裁を加えるのは私刑」との問題意識を持ち、2万人のネットユーザーの言及を調査。その結果、炎上に加担する人は「年間0.5%」(2014年)に過ぎなかった。なかでも、執拗に攻撃する人はさらに少数で、同一人物が複数回書き込んでいる悪質なケースが多かった。

 つまり、炎上被害者は社会全体を敵に回しているように見えて、実際はそうでないのだ。

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