炎上だけではない。日本が失敗に対して不寛容なのは、映画コンテンツの「ヒーロー像」からも透けて見える。経営コンサルタントで、「フィールドマネージメント」代表取締役の並木裕太さん(39)はこう言う。

「日米でヒーローに求める目的は、決定的に違います。日本で求められるのは『結果』で、アメリカでは『プロセス』を最重要視する」

 たとえば、昨年の邦画の劇映画でもっとも興行収入が多かったのは、型破りな検事が活躍する「HERO」だ。

「一番の盛り上がりは主人公たちの組織が勝利することにあるわけですが」(並木さん)

 これがアメリカになると、スパイ映画「ミッション:インポッシブル」がわかりやすい。物語の見せ場は、トム・クルーズ演じるイーサン・ハントが、知力、体力、チームワーク、テクノロジーを総動員し、絶対不可能を攻略せしめんとするプロセスにある。要するに、

「君は何に挑戦してきたのか。こんな問いが社会にあるからこそ、出てくるヒーロー像なんです」

●惨敗しても次はある

 そんな並木さんは、就職して間もないころ、ペンシルベニア大学ウォートン校でMBAを取得した。アメリカに滞在中、庭で水やりをする初老の日系男性からこう尋ねられたという。

「ユウタは日本に帰ったら何をするんだ?」

「マッキンゼー(アンド・カンパニー)という有名コンサルティング会社で働いているんだ」

 初老男性は怪訝な顔をして、こう言ったという。

「いや、おれが聞きたいのは、ユウタはどんな人間になるために、日本で何をするのか。就職するのはその手段だろ」

 男性は、植木職人として独立していた。小さな会社だが、自分の足で立って歩いてきた。彼にとって、この生き方こそが「どんな人間」に対する回答だったのだ。

 自立するって何か。一つは起業かもしれない。むろんスタートアップの多くは失敗する。なら、何もしないのが一番安全かと聞かれれば、「違う」(並木さん)。ある若者が大手メーカーを退社し、ベンチャーを立ち上げ、新型のスマートフォンをつくったとする。結果は惨敗。

「でも、挑戦をした事実は、誰かが評価する。次はある」

 日本にはエンビーが充満している。ネットには危ない人間もいる。しかし、だ。前出の千田さんはこう言う。

「出過ぎた杭は打たれない」

 あの堀江貴文を叩く人は、もういない。この特集に登場した壇蜜さんを叩く人もいない。彼らは出過ぎることを続け、エンビーの外側に脱出したのだ。(編集部・岡本俊浩)

AERA 2016年7月18日号