●事故を起こさない技術

 しかし15年5月、青山さんのプライベートでのパートナーの女性が、仕事で縛られた後、左腕が動かなくなる「事件」が起こる。診断は、手指や手首が伸ばしにくかったりしびれたりする橈骨神経まひ。治療費や賠償などの相談に乗り、わき上がった怒りをSNSで発信すると、「実は私も……」という反響が続々と寄せられた。

「自分の周りだけじゃない。こんなにも事故が起きていたのか、と愕然としました。私はプロ。師匠からは『お金をとって技術を教えるな』と言われていたけれど、事故を起こさない技術を知っているなら、広めるのがプロとしての責任ではないか」

 そんな思いで、冒頭のNPO設立を決意。情報を提供することで、事故で悲しむ人を減らしたいと、自分の学んだことや経験を元に、基本的な知識を網羅した教科書を作ることにした。

 自費出版された『現代緊縛入門』では、鍼灸と指圧の資格を持つ緊縛師が、骨と神経の危険な箇所の解説を執筆。実際に事故にあった人たちが事例報告を寄せている。

「緊縛事故にあった人は、恥ずかしさから、病院での診察を受けないことも多い。私自身もそうでした」

 と青山さん。今後は、団体名を出すことで治療を受けやすくしたり、正しい技術を伝えるための道場のような場を設けたりすることを考えているという。(ライター・遠藤一)

AERA 2016年6月27日号