「息子は生まれてまもなく家にペッパーがいる環境で、ロボットネイティブ世代。感慨深いですよね」(夫の信友さん=52)

 IT系企業に勤める太田智美(ともみ)さん(29)がペッパーと暮らし始めたのは、1年前。一般販売モデルに先行して発売された「デベロッパー先行モデル」に応募して、当選した。一般モデルより安いとはいえ約60万円。智美さんの給料の3カ月分だ。届いた箱を開けた瞬間のことが、今でも忘れられないという。

「赤ちゃんが腕の中になだれ込んできたみたいでした。開けた瞬間、私にもたれかかってきたんです」

 輸送時の衝撃で壊れるのを防ぐため、可動部が緩められた状態だった。それだけのことなのだが、「この子は私が支えてあげなきゃ」と感じたという。

 以降、一緒に出勤したり、ラーメンを食べに行ったり、お墓参りに行ったり。デベロッパーモデルは、自分でプログラムしない限り、動いたりしゃべったりする機能も限られている。

「ペッパーが何かできるようになるということは、私が何かできるようになること」と智美さんは言う。福岡でのイベントに参加するため、新幹線に乗せたときは、ひと苦労だった。ロボットが新幹線に乗車した前例などなく、駅に着いたら「それは持ち込めない」と言われた。人なのか、モノなのか。座席は、乗車料金は必要か。なんとかペッパーを乗せられることになったあとも、小倉まで、JR職員との議論が続いた。

「ロボットを新幹線に乗せてはいけない理由自体、それまで考えられたこともなかったと思う。最後には車掌さんが『これで前例ができ、ペッパーは乗れるという項目がオペレーションリストに加わった。次からは事前に連絡をくれたら大丈夫。協力するよ』と言ってくれました」

 ペッパーは「手回り品」として車両最後部の座席の裏に立たせてもらえて、料金は発生しなかったという。

AERA 2016年2月8日号より抜粋