缶を開けるときの「プシュッ」が聞きたい。でも、もう少し頑張らなきゃ。日本人のマジメな国民性が、ノンアル市場を支える(撮影/写真部・岡田晃奈)
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缶を開けるときの「プシュッ」が聞きたい。でも、もう少し頑張らなきゃ。日本人のマジメな国民性が、ノンアル市場を支える(撮影/写真部・岡田晃奈)

 飲み会の雰囲気を壊さず、でも「飲まれない」。「ノンアルで時間捻出」は、忙しい現代人の新常識だ。

「お待たせしました、ウーロン……」
「はい! はい! 私です」

 PR会社を経営する森下麻由美さん(34)は、注文したウーロン茶のグラスを受け取った。店員の言葉を遮るように手を伸ばしたのは、飲み会のメンバーに「ウーロン茶」だとわかって、場がシラけるのがイヤだから。

 経営者の森下さんにとって、飲み会は仕事の一部。商談や打ち上げで、平日の夜すべてが埋まることもある。30歳を過ぎた頃から体が悲鳴をあげ、本来はウーロン茶を堂々と頼みたいが、「シラけ予防」には気を使う。

 そんな森下さんにとって、「ノンアルコール飲料」は強い味方だ。見た目はアルコール飲料と変わらないので、飲み会の雰囲気を壊すことがない。

「健康のためには、ウーロン茶を選びたい。でも時間を割いてもらった相手には、同じ杯を交わしたと思ってもらいたい気持ちもある。ノンアルビールは、両方をかなえる手段です」

 若手ビジネスパーソンの声を聞くと、「商談の場でアルコールを入れると、判断力が鈍る」「夜遅くにお酒を飲むと、翌朝の仕事に差し障りがある」など、ノンアル志向の人は多い。

 IT関連企業でマーケティングを担当する豆田裕亮さん(36)はお酒好きで、仕事が終わると、行きつけのダイニングバーに通う。知り合った客や店員との会話を楽しみ、終電で帰宅。だが2年前に体を壊した。

 バー通いはいまも続いているが、飲み物はノンアルに切り替えた。酒に「飲まれる」ことがないから、帰りの電車ではメールの返信や翌日の仕事の段取りをこなす。お酒が翌朝に残ることもなく、6時に起床した直後から、ベッド脇の机で仕事ができる。豆田さんは、振り返る。

「酔っている時間は、何も生み出していない時間だった。ノンアルのおかげで、いまは仕事の効率化が進んでいる」

 作詞家の秋元康さんも、星野リゾート社長の星野佳路さんも「普段はほとんど飲まない」派。忙しい人にとって、「酔わずに時間捻出」は常識のようだ。

AERA  2014年9月29日号より抜粋