ワコール小川直子さん(44)異動に納得できず、人事部にかみついたこともある。でも、今は全ての異動に感謝している。「自分も後輩たちも成長していく。それが楽しい」(撮影/写真部・岡田晃奈)
ワコール
小川直子さん(44)

異動に納得できず、人事部にかみついたこともある。でも、今は全ての異動に感謝している。「自分も後輩たちも成長していく。それが楽しい」(撮影/写真部・岡田晃奈)

 仕事の活力になる「働きがい」。時には不本意な異動などで奪われてしまうこともあるが、それをチャンスに変えた人もいる。

 ワコールに入社して20年。下着やパンスト、靴などを手掛け、下着を扱う子会社ウンナナクールの取締役を務めていた小川直子さん(44)は突然、スポーツウエア「CW―X」の商品課長の辞令を受けた。2年前のことだ。ずっと「女性の気持ち」ばかり考えてきたのに。

「意地悪なのかと思った」

 メジャーリーガーのイチローが愛用し、年間50億円を売り上げる人気ブランドだが、小川さん自身は着たことがない。スポーツウエア市場のことも「まっさらな状態」で、上司として正しく判断する自信もなく、途方に暮れた。

 こうした「働きがいの危機」は、どう乗り越えればいいのか。幾度も異動を経験した小川さんが導き出したのが、「1年説」。異動後の1年はつらい。でもそこを乗り越えれば、2年目からはきっと面白いと感じられる――。

 リーダーを務めたとき。何から手を付けていいのか分からず、ブランドの幹の部分も固められずに、経営会議でも突っ込まれてばかり。いろんな人に「がっかりしたよ」と言われ、トイレでわんわん泣いた。

 打ちのめされた後、デザイナーと「女性の美しさとは」というところから半年以上かけて話し合った。そのころの主流は「寄せて上げる」などの機能的な下着。だが、小川さんがたどり着いたのは精神的満足を求める女性向けの最高級ブランド「WACOAL DIA」だった。

 CW―Xの担当になったとき、小川さんは自分の異動の意味を考えた。商品愛や知識で部下にかなわないなら、「非愛用者」としての感覚を大事にしよう。主力商品のサポートタイツは、スポーツをしない人には響かない。でも、日常生活で気になる部分だけサポートしたいという人はいるのでは?

 今年4月に、ひざや腰など部位ごとのサポーターを新発売。長時間同じ姿勢を続けるタクシー運転手や、母の日、父の日のギフトなど、新たな層を開拓できた。ユーザーには、「CW―Xはお守り」と感謝された。

AERA 2014年7月7日号より抜粋