マッキンゼーのコンサルタントを経てDeNAを起業、現在に至るまでさまざまな事業を展開してきた南場智子さん。今でこそ大企業となったDeNAだが、創業当時は苦労が多かったようだ。
DeNAを立ち上げる時、優秀な人材をどう確保するかは、大きな課題の一つだった。南場さんら創業メンバーが、「この人だ」と思った人を口説き落とす。そのとき、「DeNAには夢があり、大手ではできないこんなビジネスに挑戦できます……」などと、美辞麗句を並べ立てても、人の心は動かなかったと振り返る。結局、現状をありのままに語るしかなかった。
「職場はアパートの一室で、トイレは男女分かれていません。給与も大手に比べれば惨憺(さんたん)たるものです」
その上で、こう言った。
「助けてほしい。あなたの力が必要です」
どんなにきれいに化粧をした言葉より、これが効いた。IBMやオラクル、大手コンサルティングファームなどさまざまな大企業を辞めて、DeNAの立ち上げに加わってくれた仲間がたくさんいる。
規模が拡大したいまも、社内では「任せる」ことを徹底しているという。
「失敗のリスクは取るけど、人が成長しないリスクは取らない、というのがこの会社の基本です。社員に任せて失敗することのほうが、任せずに本人が成長しないことよりも、会社にとっては圧倒的にリスクが小さい。だから、現場に起承転結の意思決定の権限を委譲することを意識的にやっています。
DeNAの闘うフィールドはとにかく流れが速い。いちいち上に情報を上げて判断を仰いでいたら、タイムロス。現場は、その分野について365日見て考えているプロで、現場の担当者が判断するのが最適。取締役は会社全体を見るのが役割なだけで、どちらかが偉いわけでもない。現場より取締役の判断が正しいなんてことはありません。権限委譲を徹底し、『心から頼る』ことで、人はやる気を増すのだと思います」
※AERA 2014年7月7日号より抜粋