世界からも長時間労働大国と揶揄(やゆ)されるニッポン。総務省の2012年の調査では、20代半ばから40代の働き盛りの男性正社員の約2割は、週に60時間以上も就業している実態が明らかになった。週休2日とすると、1日に12時間以上も働いていることになる。厚労省の過労死労災認定基準をも超える働き方だ。そもそも、残業はなぜ発生するのだろうか。

 リクルートワークス研究所の石原直子主任研究員によると、第一の理由は「業務過多」。長いデフレ不況下で企業は人減らしを進め、社員1人あたりの業務量は増えている。次に来るのが「業務遂行の手際の悪さ」。これには、上司のマネジメント力不足が大きく影響している。

 数年前まで大手電機メーカーに勤めていた40代男性の当時のあだ名は「パワーポッター」。資料作成用のソフト「パワーポイント」を駆使し、毎月何百枚という資料を作っていたことから、魔法使いの少年の活躍劇「ハリー・ポッター」をもじって名付けられた。所属していた商品企画部は、新製品の市場調査から発売に至るまでの一連の流れを統括する扇の要。設計や生産、マーケティングなど関係部署との会議は月に40回にも上り、膨大な資料作成を求められた。

 だが、いったん作った資料を課長に見せると、「市場動向の分析を増やせ」「他社の競合品との違いを強調しろ」と決まって突き返される。「だったら、事前に要点を指示しろよ」。のど元まで出かかった言葉をのみ込んで資料を作り直し、次は部長に決裁を仰ぎに行くと、「前モデルとの原価率の比較も入れて」。こんなことが複数回繰り返され、100時間残業がほぼ毎月続いたという。

「業務の優先順位をつけ、ムダな仕事を排除する。効果的な指示を与え、一つひとつの仕事にかけている時間を減らす。残業抑制とは、詰まるところ部下の労働時間管理なのです」

 石原さんはそう強調する。部下の志向や能力を把握し、所定の労働時間内に仕事を終わらせるには、どんな業務を割り振るか。どんな順番でやらせるか。問われているのは、上司の業務設計力なのだ。

AERA 2014年6月30日号より抜粋