働き盛りで体力もあるはずの30~40代の親たちが弱っている。溶連菌やプール熱など大人にはなじみのない病気に侵される人、常に何らかの不調を抱えている人……。彼らを攻撃しているのは、子どもが保育園で拾ってきて家庭に持ち込む、多種多様で強力なウイルスだ。

 小児科と内科、病児保育室を併設する東京都目黒区のあおば医院では、子どもを連れてきた数日後に、同じ症状で親が駆け込むケースが少なくないという。千木良真保院長によると、最も感染力が強いのが、ノロ・ロタなどウイルス性の胃腸炎だ。

「ノロウイルスは99.9%といっていいほどの強力な感染力があります。特に第1子が保育園に入園して初めてノロにかかると、看病する家族は一家総崩れで激烈な症状を起こす恐れがあります」

 ウイルス性胃腸炎は患者の汚物から二次感染する。親は子どものオムツや嘔吐物を片付ける時に直接ウイルスに触れるため、手洗いを徹底しても予防は難しい。子育てするまではそうしたダイレクトな接触経験がないため、ウイルスに対する免疫がなく、重症化しやすい。

「子どもから母親にうつり、母親が使ったトイレなどから今度は父親に、と家庭内で次々と感染していく。手伝いにきた親戚など、普段は子育てをしていない人ほど重篤になりやすい傾向があります」(千木良院長)

 東洋医学の講師をしている女性(41)は、風邪予防には自信があったのに、ここ2週間ほど家族そろって絶不調だ。4月から保育園に入った長女(7カ月)が初めて胃腸炎で発熱。その3日後から女性も下痢が止まらなくなり、2日間で3キロ痩せた。続いて夫(45)が3日間寝込んでいる間、またも長女が発熱。家庭内で病気が循環している。

「仕事や生活のペースが乱れ、夫婦ともに疲れ果て、家の中がどんより険悪です」

 感染力の強さではインフルエンザも要注意だ。宝飾会社に勤める女性(41)の長女(6)は、予防接種を欠かしたことがないのに、毎年インフルエンザにかかる。マスクをさせて次女(3)にうつらないよう家庭内で細心の注意を払っても、保育園でウイルスが蔓延しているから手の施しようがない。

 昨年度からインフルエンザは発症後5日間は登園できなくなった。家族で時間差でかかると、1週間以上の欠勤を強いられるので致命的だ。長女の後に自分が38度の熱が出た時は、「私はインフルエンザじゃない」と呪文のように唱えながら検査を受け、気合で「陰性」を勝ち取って出社した。

AERA 2013年6月10日号