みんながわかる授業をしたいが、教壇から30人の子どもに話すやり方では、だれかが落ちこぼれてしまう──。万国共通の悩みを抱えた米国の先生たちが、教室での講義をやめてしまった。

 カリフォルニア州の田舎町プレザントン。シリコンバレーから車で1時間ほどの公立フェアランズ小学校を訪れると、5年生の算数の授業は大騒ぎだった。テーマは図形の活用。三角形や平行四辺形のカードで、動物や自動車など様々な形を作る。

 鼻歌を歌いながらトカゲの形を作るのに夢中な男の子、床に座り込んでノートパソコンで花の形を検索する女の子、友達に鳥のできばえをほめられて歓声を上げる男の子。みんな、ばらばらなことをしている。

 担任のハイフィル先生は教室内を歩いている。普通の授業のように教壇から全員に向けて話すのは、最初の数分間だけだった。

 教室では、図形の名前や特徴など基礎的な説明には時間を割かない。その代わり、先生は事前に説明を動画にしてネットに公開し、児童は授業前に自宅などで見てくる約束なのだ。自宅にパソコンがない児童3人は先生の機材を借りるか、学校のパソコンで見ている。

 オンライン動画を使い、従来は教室で受けていた「講義」を自宅で受け、自宅でしていた「練習問題(宿題)」を教室でする。こうした手法は「反転授業(Flipped Classroom)」と呼ばれ、米国の小中高校で急速に広がっている。

 反転授業の利点は、理解度の異なる子どもがそれぞれのペースで課題に取り組めることだ。動画は何度でも巻き戻せるし、再生速度だって調整できる。ハイフィル先生は話す。

「一日に数時間しかない教室での時間は貴重なので、新しい知識を学んだり、記憶したりすることではなく、知識を実際に自分の力で活用することに重点を置きます」

AERA 2013年5月27日号