日常生活についてまわる「ストレス」。実はなさすぎても、ありすぎてもダメだという。その対処法について、大きなストレスにさらされる機会の多い、アスリートに話を聞いた。

 ソウル五輪シンクロ・デュエットの銅メダリスト、田中ウルヴェ京(みやこ)さん(46)は、「ストレスこそ、私たちをステップアップさせるエネルギー源」とストレスの効用を強調する。

 選手を引退後、アメリカの大学院でスポーツ心理学や認知行動療法を学び、現在はアスリートからビジネスパーソンまでメンタル指導を行っている。

 田中さんによると、ストレスは「なさすぎてもありすぎてもダメ」だという。なぜなのか。

 ストレスを感じると、戦ったり逃げたりする準備のため、アドレナリンが血液中に分泌され、血圧や心拍数が上がる。スポーツに必要な反応だが、緊張しすぎると筋繊維がしなやかに動けなくなり実力が発揮できない。逆にストレスがなさすぎると闘争心がわかず、注意力も散漫になってケガをすることもある。

 田中さん自身も、最年少で日本代表入りした15歳のとき、初めての国際大会の決勝前には怖くなって大泣きした。以来、緊張して不安なときは「私ってすごい」、自信過剰と感じるときは「おまえのことなど誰も見てない」と唱えて、「適度なストレス」を意識した。五輪では不安をうまくコントロールし、目標のメダルを手にした。

 周囲の期待や目標達成のプレッシャーは、一般のビジネスパーソンにもある。ストレスを恐怖ではなく、やる気に変える効果的な方法は、アスリートから学べるものが多い。

 代表的なものが「マイソング」。高橋尚子さんがシドニー五輪のマラソン直前にhitomiの「LOVE2000」を聴いて気持ちを高めたのは有名な話だ。田中さんは言う。

「緊張を和らげるためにモーツァルトを聴く人もいれば、闘争心をかき立てるためにラップ系を聴く人もいる。いろいろなタイプを用意し、自分の心境や状況に合った曲を選ぶといい」

 アスリートがよく使う「呼吸法」も有効だ。リラックスしたい場合は長く息を吐き、逆に緊張感が足りないときは力を入れて短く「ハッ」と吐くなど、感情に合わせて変えるといい。

AERA 2013年4月22日号