女子選手15人が、暴言や暴力のあった柔道女子日本代表監督の園田隆二氏(39)らをJOC(日本オリンピック委員会)に告発したパワハラ問題は、園田氏の辞任で幕引きとなるのだろうか。しかし、彼ばかりに批判が集中した展開には違和感を覚えてしまう。監督に選んだ全日本柔道連盟(全柔連)の任命権者にも責任があろう。

 騒動中も、園田氏が厳しい言葉を投げかけ選手の尻を蹴り上げるような合宿時の映像が盛んに流れていたが、こんな光景は男子柔道界にも確実に存在したし、竹刀を持って指導にあたったり、気合注入のためと張り手をするのは少年たちを指導する町道場でも行われていることだ。

 問題にすべきは柔道界のこうした体質であり、「五輪代表」を盾にパワハラ行為を繰り返す全柔連上層部の体質だ。

 たとえばロンドン五輪の選考レースも佳境に入った2011年11月の講道館杯。代表を目指すある2人の女子選手は、ケガで出場できる状態にはほど遠かった。だが関係者によると、当時の全柔連の強化委員や監督の園田氏らは2人に出場を義務づけ、「出ないなら代表に選ばない。負けてでも出ろ」と伝えた、という。ひとりは足を引きずりながら出場し、まともに動けない状態で早々に敗退、ケガを悪化させた。もうひとりは勇気ある欠場を選んだものの、翌月の「柔道グランドスラム東京2011」の代表から外され、全日本の年越し合宿のメンバーからも外される「制裁」を受けた。ちなみにその選手は当時、世界ランク1位だった。

 トップ柔道家にとって五輪の金メダルは最大にして唯一といっていい目標だ。代表に選ばれるには強化委員会の意に沿わねばならず、国際大会にも出場してポイントを獲得し、出場権を得なければならない。だがケガを悪化させて五輪出場がかなわなければ本末転倒である。

AERA 2013年2月11日号