多くの人に利用されているインターネット上の百科事典サイト「Wikipedia(ウィキペディア)」。誰でも自由に書き込むことができ、無料で利用できるなど利便性が高く、最近では情報の正確性も格段に高まってきた。しかし一方で、記事をそのままコピーし、会社資料や論文、公的資料に使用する現象なども起きている。これにより危惧されるのは、その内容の信憑性とともに、人々の判断力の低下だ。

 アエラでは、全国500人にウィキペディアの利用に関するアンケートを行った。ウィキペディアの記事の「信頼性」について聞くと、約8割の人が「信用している」と回答。

 記事をそのまま引用する「コピペ(コピー&ペースト)」についても聞いた。レポート作成や卒業論文、自治体の公的資料にウィキペディアがそのまま引用されることは、以前から問題視されてきた。アンケートでは、資料作成などでコピペしたことがあると答えた人は約1割と少なかったが、慶應義塾大学総合政策学部の新保史生准教授は、

「学生に限っていえば、ほとんどはコピペ経験者でしょう」

 いまの高校生や大学生は、物心ついた頃からウィキペディアがあった。冊子の百科事典がブームだった年配世代との間に意識の差が生じるのは、当然だ。

「ただ、ウィキだけで判断してしまうのは、情報精査として危うい。ウィキはあくまで情報ソースの一つ。複数の情報を集めて照合しようとしないことの方が、心配です」(新保准教授)

 情報の「ウラ」を取るのは時間がかかる。だが、いくつもの情報源に当たることこそが、個人の情報処理能力や調査能力を高め、多角的にものごとを見る姿勢を養う。井上氏も危惧する。

「情報源一つで納得してしまうのは、自己判断力が落ちている証し。SNSなどでデマの拡散に加担しやすい。それに、口がうまいだけの政治家や役人に騙されやすくもなります。こうした傾向は、ある意味、ポピュリズムの走りに近い」

AERA 2012年10月1日号