例えば。と、目の前に置かれた小ぶりの磁器のふたにすっと手を伸ばした。

「ここに何が入ってるんやろうと思って、とりあえず開けてみる。その気持ちをずっと持ち続けてるんです」

 好奇心とチャレンジ精神。「三枝改メ六代桂文枝」を動かし続ける原動力を、そう説明する。人と同じことはやりたくない。高座にとどまらずラジオやテレビなどに出続けてきたのも、そんな気持ちからだ。本業の落語では特に1980年代以降、一貫して創作落語に挑み続けてきた。

 今年7月に上方落語の大名跡である文枝を継いだ。古典の名手とうたわれた先代であり師匠でもある五代目文枝と自分はまったく芸風が違う。悩んだが、「落語をまた演芸の中心にしたい」と願う気持ちが勝って襲名を決めた。

 2007年から審査委員長を務めるピン(1人)芸人のコンテスト番組「R−1ぐらんぷり」に、もっと落語家に出てほしい、と発破をかける。

「みんな能力はあるし、新しいことにチャレンジしてほしい。僕がもっと若かったら出てたし、優勝したでしょう」

 枯れることも収まることもよしとしない。古希目前。大名跡を背負った今なお、青春のただ中にいる。

AERA 2012年9月24日号