2019年に埼玉県川口市内のマンションから飛び降りて亡くなった当時15歳の小松田辰乃輔くんは、遺書のようなメモで、いじめに対する大人の対応を糾弾しています。「教育委員会は、大ウソつき。いじめた人を守って嘘ばかりつかせる」。まさに自分が感じていたことだと思いましたし、私がいじめ被害に遭ってから10年以上経った今でも変わっていないのだと痛感した事件でした。

 このような過酷な環境で、誰にも助けてもらえずに悩んでいる子どもの中に、本書で救われる子がいればいいなというのが、著者の願いです。本書では、ツラい経験を通じて人生に絶望した自分が、どうやって少しずつ「自分は、自分の人生を選べる」という自信を取り戻したのかを解説しました。

 いじめに遭い、親や先生に怒られ続け、自身の尊厳を踏みにじられ続けていると、子どもは「自分には何もできない。才能がない」と思いこむようになっていきます。いや、「子どもは」と申し上げましたが、大人もそうでしょう。本書にはそうした人に対する個人的なアドバイスを多く盛り込みました。

 一方で気をつけていただきたいのは、この本に書いた内容はあくまでも私個人の経験に過ぎず、すべての人にとって役に立つ知識であるとは限らないということです。本書はともすれば、「考え方を変えれば一人で乗り越えられる」と、被害者をさらに追い詰めてしまうであろう本でもあります。この点に大人は細心の注意を払わなければいけません。

 本書をきっかけに、一人でも救われる子がいてくれたらいいと願っているのはもちろんのこと、一人でも多くの大人が、悩んでいる子どもとまっすぐ向き合うようになってくれたらいいなとも願っています。

 大人が苦しんでいる子どもから目を背けない世の中になれば、やがては『こども六法』もろとも、本書も必要ない存在になるでしょう。そんな未来をつくるきっかけの一冊になれば、私が本書に書き留めた個人的な体験は、いじめのような「理不尽な苦痛のない世界」が実現するまでの歴史の一部として、意味のあるものに昇華していくと信じています。