理屈だけでは、体に染み込まない。世界の産地から選んだ2500円以下の50本のワインを飲んで、反復学習する。少しずつ階段を上がっていくうちに、ワイン飲みの基本動作が身につく。読み終えるころには、どんなレストランに行っても怖くない。料理に合うワインが選べ、グラスの中身がきちんと評価できる上級者になっているはずだ。

 ワイン入門本の多くは教科書的で、堅苦しい。ワイン資格を目指す人を対象にしているから、読んでいて楽しいものではない。本書の狙いはワインを楽しむ術を身につけること。そのためには、ワインが身近な存在になることが大切。ロマネ・コンティが高価な理由、サスティナブル農法の重要性、ブラインド・テイスティングの秘訣など、ワインにまつわる多彩なエピソードも盛り込んだ。

 ワイン作法を自分のものにするのに、高いお金を払ってワインスクールに通う必要はない。世間には無料のデジタルなツールやアプリがあふれている。SNSから情報もとれる。Zoomを使っておうち飲みワイン会を開いたり、セミナーに出席したりすれば、経験値が自然と上がる。

 好きなワインができたら、あなたの声をデジタル空間を通じて世界に広めよう。ワインはソーシャルなお酒。1人で飲むものではなく、友人や家族と喜びをシェアすることで、おいしさが2倍にも、3倍にもふくらむ。それがポストコロナのワイン術なのだ。

 新型コロナウイルスの思わぬ副産物がある。フレンチやイタリアン、中華など本格的なレストランがこぞってテイクアウトやデリバリーに力を入れ始めた。街を歩けば、「テイクアウトOK」の看板に出くわす。ネットで注文して、本格的な料理が翌日には自宅に届く。

 本格的な料理は、温度や食感にこだわっている。お店に出向かないと、真価は体験しにくいが、飲食店も営業の短縮を迫られて、テイクアウトは大切な収入源だ。時間がたってもおいしさを再現できる工夫を凝らしている。

 プロの料理をしゃれたお皿に盛り付ければ、おうちの食卓がハレの場に変わる。そこで料理に合うワインを適切にサーブできれば、暮らしにうるおいと華やぎが生まれる。家族の幸福は食卓から生まれる。

 おうち飲みワインの常識を身につけるのは、車の運転のように基本的な技能となる。それは新しいライフスタイルを豊かにするのに欠かせないたしなみともなる。