『でたらめの科学 サイコロから量子コンピューターまで』
朝日新書より発売中

 この本のテーマは「でたらめ」である。

 このタイトルで出すことが決まり、知人に連絡したところ、「おもしろそうなタイトルですね」という反応がいくつかあった。だがそのあとがいけない。

「フェイクニュース時代に迎合した?」「トンデモ科学の本かなと思いました」と。
「そういうつもりじゃないんです」と言いたいところだが、「でたらめ」を辞書で調べてみると、確かにそう思われても仕方がないことがわかる。

 まず広辞苑。「筋の通らない言動。でまかせ。また、物事や言動が首尾一貫せずいいかげんであるさま」。大辞林も「筋の通らないことやいい加減なことを言ったりしたりすること(さま)。また、そのような言葉」。

 ユニークな語釈で知られる新明解国語辞典はどうか。「一 事実に合わないことや首尾一貫しないことを出まかせに言ったりしたりすること 二 いいかげんで、信用の出来ない様子だ」。散々である。

 本の中にも引用した増山元三郎氏の『デタラメの世界』(岩波新書)にはこう書いてある。
「現代日本語の“デタラメ”には二通りの意味があって、一つはもとの意味で“偶然的”ということ、もう一つはこれから派生したもので“恣意的”ということである」

 でたらめの語源は「サイコロの出た目の通り」ということだから、本来は前者の意味のはず。しかし今は派生的な意味が主流になってしまったようで、知人らが誤解したのも仕方ないところだ。

 実はこの本も、偶然の産物かもしれない。2019年10月、グーグルが量子コンピューターによる「量子超越」というのを発表した。社会を変える可能性を秘める量子コンピューターの実現が一歩近づいたことを示す成果だが、記事を担当したのが、たまたま私だった。この研究はでたらめな数の並びである乱数と関係があり、これをきっかけに私は、でたらめの世界を探訪することとなった。

 でたらめに見える現象としては、水に浮かんだ微粒子が不規則に動く「ブラウン運動」があるが、その動きにも似て、私はさまざまな分野の専門家を訪ねた(コロナ禍でオンライン訪問が多かったが)。そして、理想的なでたらめづくりの難しさや、でたらめの応用の広さを知った。

次のページ