乱数をつくるには「サイコロを振ればいいではないか」などと単純に思うが、サイコロやルーレットは、つくり方が悪いと「目」に偏りが出てしまう。トランプをよくシャッフルしても、できたカードの並びを調べると、意外とでたらめにならないことが知られている。知人に聞いた話だが、麻雀の全自動卓は牌のかき混ぜが不十分で、正式な競技麻雀では選手4人でかなりかきまぜているという。実際には、電気回路にでたらめに発生する雑音を利用して乱数をつくる装置などが使われる。

 コンピューターで本当にでたらめな乱数をつくることも簡単ではなく、さまざまな方法が研究されている。この分野の先駆者でもある数学者ジョン・フォン・ノイマンも、3・141592……と無限に続く円周率πの数字の並びを部下に調べさせ、乱数としての性質を検討したという。理想的なでたらめを自然に求めたのであり、「すべて自然でないものは不完全である」というナポレオンの有名な言葉を思わせる話だ。

 一方で乱数の用途はかなり広い。暗号など情報セキュリティーへの応用が身近で、私たちが毎日のように使っているインターネットの暗号通信でも乱数が活躍している。

 実際にやるのは難しい実験をコンピューターの中で再現して何が起きているのかを調べたり、安全かつ効き目がある医薬品を見つけたりするのにも応用されている。秋山仁先生に書いてもらった「乱数とは人類が自然界に切り込むための名刀である」という本の帯の言葉は、まさに本質を突いている。

 また「でたらめ」という性質は数学的に強いものだそうだ。広島大学の松本眞教授によると「乱数の定義はタフで、ほとんどどんな変換でも保たれる」という。ちょっとやそっとのことでは揺るがないのだ。

 そういうわけで、でたらめは「筋が通らない」とか「いいかげん」ばかりではなく、実はタフで役に立つ奴でもあるのだ。新明解国語辞典は2020年11月の第八版で性に関する記述を見直し、「恋愛」の相手を「特定の異性」から「特定の相手」とするなど先進的な編集をしている。第九版ではぜひ、「でたらめ」に三つ目の語釈を加えてもらいたいと思う。

「三 規則性がなく偶然が支配するさま。ランダム」