これらの声に力を得て、これまで発信したものを基に、過去及び現在、「教育困難校」に実際に関わっている人たちへの取材を新たに加えて再構築したものが本書である。

 本書の主眼は荒れた学校現場を詳述することではない。そのような現状を引き起こした原因、つまり、日本社会の変化とそれによる家族の形や学校制度のきしみ、人々の意識の変容などを考えること、併せて現時点での問題点を指摘することである。

「教育困難校」を多角的に見るために、卒業生、校長や副校長などの管理職教員、一般教員、PTA役員、生徒の進路指導に携わる企業や社会福祉法人職員等に取材を行い、「教育困難校」を俯瞰的に見てみることを心掛けた。

「教育困難校」卒業生である20代の青年は、自身の高校3年間を「悪夢」と言い切った。学びたい、学力を伸ばしたいと思っていたのに、学びたくない生徒たちに学びを妨害され続けていたからだ。彼は、自分と同じような後輩を作りたくないと、筆者に熱心に訴えてくれた。

「教育困難校」生徒を対象とした進路情報企業の社員は、生徒の興味・関心がゲームやユーチューブなど非常に限られていることに大きな不安を感じている。彼らが、自身の興味・関心に従って高等教育に進学しても、さらに、進学率向上のために国費を投じても、彼らの将来の経済的自立が果たして可能なのか疑問であると語った。

 現役の教員は、多様な仕事に追われる厳しい労働環境が生む、教員間の独特の雰囲気を憂えている。校長や副校長は、学校改革を進めようとしても、費用や人材不足、さらには地域社会の変わらない低評価に苦しんでいる。

 取材をした全ての方々が、現状に危機感を持ち、このままではそこで学ぶ本人だけでなく、将来の日本社会に大きな悪影響を与えると危惧していることは看過できない。
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 筆者は、「教育困難校」は学校制度の形を取ったセーフティネットであるべきと確信する。それを有効に機能させるために、今、何をすべきか、読者とともに考えたい。