そんな中でも、目の前の仕事にだけは真摯に取り組んできました。自分がこの世界で生きていくには、人一倍考えないといけない。何ができるのか、何をしたいのか。それを実現するためには、何が必要なのか――。本を読み、人と会い、思考力を鍛えることを何年も続けてきました。

 その結果、情熱を具現化し、なりたい自分になるためには、何よりもプロセス、つまり「準備」が大切なのだと感じています。

 準備の必要性は、普通の人もスペシャルな人も変わりません。たとえば、サッカーの日本代表選手。日本代表が大会や試合で滞在するホテルは宿泊する階を貸切りにしてもらっているのですが、そこでは、普段見ることのない光景が広がっています。

 練習時間の2時間以上も前から、一人、二人と選手が部屋から出てきて、ホテルの廊下にマットを敷き始めます。そして最後は、大勢の選手たちが自主的に体幹トレーニングやストレッチを行うのです。そこにはスタッフからの指示はありません。あくまでも自主的に取り組んでいます。誰かが始めたこの準備が伝統になり、今や若い代表チームの選手たちも真似をし、練習の準備はホテルの廊下から始まるようになっています。

 良い準備は、良い結果を保証してくれるものではありません。どの世界でも、結果は誰にも分かりません。何もしないのに勝つことも、成功することもあるでしょう。偶然や幸運で成功する時もあると思います。でも勝ち続けるため、成功し続けるためには、準備に注力することが一番確率を上げる近道だと信じています。

「一燈を掲げて暗夜を行く。暗夜を憂うることなかれ。只だ一燈を頼め」

 昨年、ベルギーのクラブにコーチとしてチャレンジする際に、恩師から頂いた言葉です。試合に勝てない時期は、この言葉に励まされていました。「困難があっても、暗闇の中でも、決して志を忘れず、心の燈(あかり)を消すことなく信じて前へ進みなさい」。言葉の意味通り、信念をぶれさせることなく、信じて進もうと決意しました。

 この本では、私が日本サッカー協会の技術委員長として経験してきたこと、困難に直面したときの対処法、日本代表選手たちのエピソード、指揮を執るレノファ山口FCでの取り組みなどを通じて、「成果を出すための準備」についてまとめました。少しでも、この本を手にとってくださった方のお役に立つことができればと思っています。