ただ、それだけで、リハビリが順調に進むわけではない。「頑張ること」は、その人の生き方の基本であることが多く、一回の説明で変わるものではない。うつの調子が少しよくなってくると、「うつだと思ったけれど、あれは間違いで、やっぱり、気合が足りなかっただけだ」とすぐに「頑張り癖」が復活してくる。休んでいることに罪悪感や焦りを覚える。

 そういう人は、往々にして仕事をこなすように、うつから回復しようとする。自信が低下している分、それを以前の成功パターンで補おうとしてしまう。期限を切って、「ここまでにこれぐらい回復しておくべき」とスケジュールを立て、それに必要なタスクを自分に与える。即効性を求めてうつの関連本を読みあさり、名医を訪ねる。しかし、なかなか改善を感じられず、他の治療法を探し続ける。一方で、休養しているこの機会を使って実力向上を図ろうと、自己啓発やスキルアップに励もうとしてしまう。もう一度強調するが、うつは疲労。これだけ活動していれば、回復は遠くなる。

 ただ、この焦りのパターンをクライアントに説明しても、こうした悪循環からはなかなか抜け出せないものだ。うつは、理性でコントロールする力が弱まっていると思ってほしい。体のほうにアプローチするべきなのだ。体は、理屈では動かない。繰り返し体験し、いわゆる「体で覚える」プロセスを踏む必要がある。

 うつは心底まで疲れ切った状態。回復までにはかなりの時間がかかる。私はうつを最短で抜けたという自負を持っているが、それでも職場を二カ月休み、元気な状態になるまでには一年かかった。この長いリハビリの間に、焦りのパターンに陥らないようにしたい。

 うつから回復しようとする人に、「うつになったことを認め、休むことを自らに許せる」ようになる基本的な考え方と、それを何度も体に覚えこませるためのトレーニングを紹介したのが本書だ。本書は十四年前に刊行され、「この本によって救われた」という声を数多くいただいた。

 ただ、今でも私のところに、うつのリハビリの指導を求めてくる人の多くは、先に紹介した焦りのパターンに陥り、苦しんでいる。初めての人はどうしてもそうなるし、こじらせている人もこのパターンを続けているから、長引いているのだ。本書が文庫化されたことで、より多くの人がこの焦りのパターンから抜け出し、少しでも早く、本来のプライドある人生を取り戻してくれることを願っている。