7月号ミュージシャン 小宮山雄飛(ホフディラン) Komiyama Yuhiカレーの履歴書 |AERA dot. (アエラドット)

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7月号
ミュージシャン 小宮山雄飛(ホフディラン) Komiyama Yuhi
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 本業はミュージシャンながら、年間200軒のカレー屋巡りと、家でも200食近くカレーを作る僕ですが、カレーとの出会いはちょっと変わっています。というのも僕の家にはいわゆる「おうちカレー」がなかったのです。うちの母は家族の健康を考えて、食卓においてできるだけ自然の素材にこだわり、いわゆる「できあい」のものを使わないというポリシーを持っていました。なので、うちではレトルトや缶詰のカレーが食卓に上がることはなく、カレールゥすら使わない主義でした。といって、インド料理の知識があるわけでもない母が、ルゥを使わずに一からスパイスを調合してカレーを作るなんてのは不可能。その結果、母はカレーに関してとてもシンプルな結論に達しました。

「うちではカレーは作らない」

 どうですこの分かりやすさ(笑)。そんなわけでおうちカレーのない家に育ち、カレーに対して完全な無菌状態だった僕が、高校生くらいになり、自分で外食をするようになった時に、街のカレー専門店でカレーに出会ったのですから、その衝撃は大きかったです。

「なんだ、この美味しい食べ物は!」

 そんな流れですっかりカレーの魅力にハマった僕は、いつの間にかカレーの食べ歩きをライフワークとしていました。

 そこからさらに、自宅でのカレー作りにハマっていったきっかけは食の雑誌「dancyu」。スパイスの伝道師と呼ばれる渡辺玲(あきら)さんにカレー好きの僕がインドカレーの作り方を習うという企画でした。おうちカレーのない家で育ち、カレーは外で食べるものと捉えていた僕が、カレー作りを教わり「なんだ、家でも美味しいカレーが作れるんだ!」と、今度は一気に自分で作るおうちカレーに目覚めたわけです。スパイス専門店に行きスパイスを買い揃え、鍋に包丁・木ベラなど、調理器具もそろえ、日々オリジナルのカレー作りに励んでいました。しかし、1からスパイスで作るカレーは、やはりそんなに簡単ではありません。ちょっとスパイスの分量を間違っただけで、それまでの工程が水の泡なんてことも多々あり、だんだんと面倒くさくなってきて、気がつけばカレーを作る回数は日に日に減り、いつの間にかカレーは友人や家族が遊びにくるパーティーの時だけわざわざ作る、言ってみれば「ハレの日」の料理になっていました。

 そんな僕をまたカレー作りへと導いてくれたのは、今度はテレビの企画でした。NHKの「やさいの時間」という番組で、旬の野菜を使ってカレーを作るというコーナーのレギュラーに抜擢されたのです。カレーの種類はいわゆるカレーライスに限らず、僕が自由な発想で考えてよいのですが、一つだけ条件がありました。それは視聴者がそのカレーを実際に作れなければ意味がないので、全国どこでも手に入る食材・調味料で作るということでした。そこで複雑なスパイスの組み合わせで作るカレーではなく、どこでも手に入るカレー粉を使ったカレーを考案することになりました。しかし、おうちカレーのない家に育ち、その後いきなりスパイスの伝道師からスパイスを使った本格的なカレー作りを学んだ僕は、一度もカレー粉というものを使う機会がなかったのです。正直言えば、それまで「カレー粉で作るカレーなんて邪道だ」くらいに思っていました。しかし、実際にカレー粉を使ってみると、これが面白いくらいに美味しいカレーができる!(笑)。それもそのはず、日本人の誰もが「これがカレー味」と思うような調合をすでにしてあるのがカレー粉ですから、面倒なスパイスの調合なしで、見事にカレー味になるのです。なによりも嬉しいのは、すごく簡単にできること。様々なスパイスを使う面倒さから、すっかり「ハレの日」にしかカレーを作らなくなっていた僕が、カレー粉と出会ったことで、また気軽に毎日のようにカレーを作るようになったのです。

 カレーのない家庭に育ち、街の専門店で初めてカレーの洗礼を受け、食べ歩きを始め、スパイス伝道師の教えでカレー作りに目覚め、カレー粉との出会いでまたカレー作りへと帰ってきた僕が、今まで作り貯めてきたオリジナルレシピから厳選した30ほどのレシピを紹介しているのが、このたび出させてもらった『カレー粉・スパイスではじめる 旨い! 家(うち)カレー』です。今書いたような経緯から、この本のレシピは、スパイスから作るカレーとカレー粉で作るカレーの大きく2つに分かれています。多少手間がかかってもシャープな香りを楽しみたい時はスパイスを使い、とにかく簡単に美味しく作りたい時はカレー粉で作ってもらえるようになっています。

 とにかく大切なのは、まず作ってみること。僕がそうであったように、この本を読んだ方が、おうちカレー作りの楽しさにハマるきっかけになってくれれば幸いです。



(更新 2016/7/ 7 )


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