『変な家』雨穴 飛鳥新社
『変な家』雨穴 飛鳥新社

 季節は夏本番。ということで、少しでも涼しくなりたい方のために、背筋がゾクリとするような、こんな一冊はいかがでしょうか?

 今回紹介する書籍『変な家』は、インターネットを中心に活動するホラー作家・雨穴氏による著書。自身のYouTubeチャンネルで700万回以上再生された動画「【不動産ミステリー】変な家」を書籍化した一冊です。

 書籍、動画ともに、雨穴氏が知人の「柳岡さん」からある相談を受けるところから物語はスタートします。それは、家を買おうと決心した柳岡さんが不動産会社をまわったところ、良さそうな中古の一軒家を都内に見つけたものの、間取りに不可解な点があるので決めかねている、というものでした。

 二階建てのその家は、なぜか一階の台所とリビングの間に「謎の空間」があるのです。そこで雨穴氏は、知人の設計士「栗原さん」に相談してみることに。すると、間取り図を見た栗原さんは、さらに不思議な点を指摘します。

 二階の中心に作られた子供部屋は窓がひとつもない上に二十扉になっており、子供部屋専用トイレが作られている。子供はこの部屋に閉じ込められていたのではないか。子供の存在を知られてはいけない何らかの事情があったのではないか。そう推測するのです。

 ほかにも、二階の寝室からシャワー室の脱衣所が丸見えになっていることや、シャワー室とは別に窓のない浴室があることなど、次々と奇妙な点を発見します。前の住人は夫婦と小さい子供の三人家族だったそうですが、なぜこのような「変な家」が設計されたのでしょうか。

 栗原さんの話を聞いた雨穴氏は、一階と二階の間取り図を重ね合わせ、一階の謎の空間と二階の子供部屋にピタリと重なる部分を見つけます。そこから栗原さんが導き出した推論は......。

 YouTube動画はここで終わっているのですが、書籍にはその続きがしっかりと収録されています。

 雨穴氏がこの変な家についての記事を公開したところ、ある女性からメールが届きました。それをきっかけに、埼玉県内にも「窓のない子供部屋」「備え付けのトイレ」という共通点を持つ不思議な間取りの家があったことを知るのです。

 東京の家と埼玉の家の関連性は? その家でいったい何が行われていたのか? 監禁が疑われる子供部屋の意味とは? 埼玉の家の間取り、そこに住んでいたらしき女性にゆかりのある古民家の間取りも登場し、謎が謎を呼ぶ展開に......。ついには、ある一族が抱える大きな秘密へとつながっていきます。

 「ちょっと変だな」という間取りの違和感から始まり、予想だにしない驚愕の結末へとつながっていく展開はホラーのゾクゾク感もあり、一気に最後まで読んでしまうでしょう。本書には間取り図も掲載されていますので、ぜひ文章と照らし合わせながら読み進めてみてください。どこかにこんな家が存在していそう......と思わせるところがまた、単なるホラーやミステリー小説では終わらないリアリティを醸し出しています。

[文・鷺ノ宮やよい]