家では普通に話せるのに、保育園や学校に行くと全くしゃべれない......200人に1人の割合で存在する「場面緘黙(ばめんかんもく)」という症状をご存知でしょうか?



 場面緘黙とは、家では普通に話せるのに、保育園や学校など特定の"場面"では、話せない状態が、1カ月以上の長期にわたって続く症状で、米国精神医学会の診断基準では「不安症」に分類されています。また、自閉症スペクトラムなどの発達障害、あるいは吃音(きつおん)症など、言語発達の問題が絡んでいる場合もあるそうです。



 発症のきっかけは人によってさまざまですが、保育園・学校への入園・入学で、大きく環境が変化したことを要因に挙げる人もいます。場面緘黙の子どもは、新しい環境に慣れるのに時間がかかり、不安や緊張のために、話したくても話せない状態に陥っていますが、クラスメイトや先生など周囲の人からは「自分の意思で話さない」と誤解されることも。しかし、「『あ』って言ってみて!」「どうして話さないの?」など、しゃべることを強要する言葉は、その子を追い詰めることにもなりかねません。



 本書『私はかんもくガール: しゃべりたいのにしゃべれない 場面緘黙症のなんかおかしな日常』の著者、らせんゆむさんも、そんな場面緘黙を経験した1人。家ではうるさいぐらいしゃべるのに、幼稚園や学校に行くと「しゃべっているのを見たことがない、とーっても大人しい子」でした。幼稚園入園から「話をしないキャラ」のパターンが固定されてしまい、そこから抜け出すのが難しくなり、話せない状況が習慣化してしまったといいます。



 その後、環境の変化と、何よりも自身の努力により、少しずつ話せるようになり、普通の人と何ら変わらないコミュニケーションを取れるまで改善します。しかし、社会人になって就職してから、社会にとけこめないことで孤立感を深めます。



 らせんゆむさんは、不眠をはじめ鬱病の症状が出始めたことをきっかけに、子ども時代を振り返り「もしかしたら、ほかにもおなじような人がいるのかも?」と、話せないことをインターネットで検索。そこでヒットした言葉こそ、「場面緘黙(ばめんかんもく)症」だったのです。これまで苦しんできたことは、自分の性格のせいではなく、れっきとした名前がある「症状」だったことを知り、もっと早く知っていれば!と愕然となったそうです。



 そして、自身の経験談が、同じ症状に悩む人の役に立てば......と思いついたのが、本書の出版でした。読みやすいコミックエッセイで、場面緘黙の体験はもちろんですが、成人後に話せるようになってから直面した「後遺症」の実体験まで綴られた本書は、場面緘黙経験者に限らず、多くの人の共感を呼ぶ1冊になっています。



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