感謝の気持ちを伝えたいのに、実は偉そうな表現になっていたり、文法として間違っていたり。自分に悪気がなくても、相手が不快な思いをしていることは、実は結構多いものです。本当は敬意を表したくても、それが言葉で表現できていなければ、せっかくの気持ちも台なしになってしまいます。



その日本語が正しいかどうかを、◯×形式でわかりやすくまとめ、収録しているのが書籍『知らずに使っている実は非常識な日本語』です。本書を書いたのは、NHKで約40年間にわたって、アナウンサーとして活躍した梅津正樹さん。局の用語委員も務め、「ことばおじさん」の愛称でテレビやラジオで親しまれた日本語のスペシャリストです。「職業柄、誰にでも分かりやすく、そして正しく伝わる言葉を使わなければならない立場にいた」という梅津さんは、本来とは違う使い方や、誤った解釈がされがちな日本語の数々を解説します。



日本語の中でも難しいとされるのが、正しい敬語の表現。敬語としても正しく、失礼にもあたらない表現とは、どのようなものなのでしょうか。



■「ファンの皆様に感動を与えたいです」→×

スポーツ選手や歌手が観客に向かって使っている印象のある、こちらのフレーズ。語法としては間違っていませんが、「与える」には「相手の望みなどに対応するような物事を"してやる"」という意味があるので、無礼な表現にあたります。

【正しい表現は「感動していただく」】



■お召し上がりは店内でよろしかったでしょうか?→×

客が意思表示を口にしていないのに、店員が選択を決めつけてしまうのは、あまりにも唐突です。この誤った表現が広がったのは、過去形には丁寧さを感じさせる働きがあるからではないかと、梅津さんは指摘します。

【正しい表現は「〜店内になさいますか?」】



■何か質問はございますか?→×

文法的には間違っていません。しかし、「ございます」は多くの場合、自分のことに対して使う表現。そのため、相手に対して使うと違和感を持たれてしまうケースは少なくありません。

【正しい表現は「〜おありですか?」】



梅津さんの解説によれば、◯×の表現以外にも、△の表現もあるとのこと。△は、正しいとも、間違いとも言い切れない、変化の過渡期にある言葉です。「言葉は時代と共に変わる」と言いますが、今後の日本語の規範を作るのは、日々、日本語を使う私たちなのかもしれません。