知性と遊びゴコロで本誌を牽引した井上ひさし
知性と遊びゴコロで本誌を牽引した井上ひさし

 編集者と読者と筆者が形づくる共同体──丸谷才一が雑誌の理想型として提唱した読者参加型の企画は、時代と共に形を変えながら誌面を活気づけた。家庭で読まれる週刊誌を標榜した本誌の真骨頂がここにある。作家・重松清さんの集中連載「『週刊朝日』を賑わせた文芸企画たち」、堂々の完結。

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「週刊朝日」は国民雑誌の西の横綱──。

 作家・丸谷才一と劇作家・山崎正和、そして『コンセント抜いたか』の嵐山光三郎さんによる鼎談(『東京人』1989年8月号)で、「週刊朝日」はそう位置付けられていた。ちなみに東の横綱は「文藝春秋」である。

 34年前の評価がいまなお有効か否かはともかく、ご紹介したいのは、鼎談中に丸谷才一が語った、こんな言葉──。

<雑誌というのは編集者と読者と筆者が形づくる共同体なんですから、読者参加は大事ですね>

 それは決して建前ではない。丸谷才一は、「週刊朝日」史上に残る2本の読者参加型企画に深くかかわっていた。

 まずは、1974(昭和49)年に始まった『読者パロディ』──宮沢賢治の『雨ニモマケズ』や文部省唱歌を元ネタにしたり、時効直前の三億円事件の犯人の心境をお好みの作家の文体模写で綴ったりという、社会風刺や言葉遊びのアレコレを募集する企画である。

 選者は、企画の発案者でもある丸谷才一と、作家・井上ひさし。パロディをこよなく愛する2氏の呼びかけに、読者も期待以上の熱気で応えた。連載はたちまち大評判になり、スピンオフの『パロディ百人一首』もお正月の吉例になったのだ。

 投稿企画の成否は、送られてくる作品のレベルにかかっている。『読者パロディ』はどうか。

 第1回の元ネタは、岩波文庫の発刊の言葉『読書子に寄す』──格調高さでつとに知られる名文の換骨奪胎に挑んだ投稿は、600通近くにのぼり、しかも高校生から70代まで幅広い年代からの応募だったという。

 なんとも教養あふれる読者揃いではないか。

 うれしい誤算? いや、読者の知性や遊びゴコロについて、編集部には確かな信頼があったはずだ。

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