2013年、75歳で世を去った声優の内海賢二さんの人物像に迫る映画が公開される。内海さんの駆け出し時代を知る「レジェンド声優」は、まだ声優が「裏方」扱いだった黎明期から現在までの、目覚ましい時代の移り変わりを語る──。
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「北斗の拳」のラオウ、「Dr.スランプ アラレちゃん」の則巻千兵衛、「魔法使いサリー」のサリーちゃんのパパ、そして洋画でのスティーブ・マックイーンやジャック・ニコルソンの吹き替え……内海賢二さんは、さまざまな“声”でお茶の間に親しまれた。
9月30日公開の映画「その声のあなたへ」は、新人ライターが内海さんゆかりの声優やスタッフに話を聞いていくドラマ仕立てのパートを盛り込みながら、その人物像を浮き彫りにするドキュメンタリー。作品には内海さんの妻で「サザエさん」のワカメちゃんや「ドラえもん」のしずかちゃんの役をつとめた野村道子さんをはじめ、野沢雅子、神谷明、戸田恵子、山寺宏一、水樹奈々などの豪華声優が「証言者」として登場。声優界全体の歴史やあり方についても語られていく。
「『お世話になったから、恩返しのために』と、みなさん本当に快く出演を引き受けてくださって。そこは父の人徳だったのかなと思います」
と、作品にも登場する内海さんの息子で、内海さんが設立した声優事務所・賢プロダクションを受け継いだ内海賢太郎さんは語る。
「明るく豪快なイメージの父ですが、一方で謙虚でもあり、生前には自伝の話を断ったこともありました。父が生きていたら映画なんて絶対嫌だと言っていた気がします(笑)。父の世代は、声優というと裏方意識というか、メインストリームに出る花形役者とは別物という感覚があったようですからね」(賢太郎さん)
ラオウとしずかちゃんの声が響く家庭で生まれ育った賢太郎さんは、少年時代をこう振り返る。
「遊びに来た友達に、母がふざけてしずかちゃんの声で呼びかけて、ビックリされていましたね。当時、野沢雅子さんもご近所で、時々いらっしゃいました。『Dr.スランプ』が始まったときには『お前のお父さん、スケベだな』と言われていたのに、『北斗の拳』のラオウが出てくると、『親父さん、強いな』と変わった(笑)」