下重暁子・作家
下重暁子・作家

 人間としてのあり方や生き方を問いかけてきた作家・下重暁子氏の連載「ときめきは前ぶれもなく」。今回は、「家庭内パワハラ」について。

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 コロナはややおさまりを見せているが、在宅勤務が定着し、自宅で仕事をする人が増えた。夫婦ともに家にいる時間が多くなった。子供たちが学校に行っている間、夫婦二人で顔つきあわせていると、ひと足先に老後が来たような気がするといっていた知人がいた。

 体はまだ元気だし、家で仕事をするにしても、自由に時間が使えるはずなのに、なんとなく気づまり。「亭主元気で留守がいい」とばかり昼間はジムやらママ友どうしでお茶会、というわけにはいかなくなった。

 そのためにストレスが倍増したという。つれあいが家で仕事をしていれば、途中でお茶をいれることもあるし、一日のスケジュールが狂うのだそうだ。

 確かに子供が大きくなって家を出ていくまでの生活のはずが、二〇代、三〇代ですでに老後の二人暮らしが始まったようできゅうくつでたまらないという。

 なるほど。顔つきあわせていると文句も増えるし相手の言動が気になって喧嘩も増えるというものだ。

 そこで会社へ出勤はしないが、自宅を避けて、近くのカフェに陣取りパソコンで仕事をしている人たちの姿が増えた。わが家のマンション近くのカフェは、そうした仕事族で混んでいる。わざわざ仕事場を確保する人も、そうした人々を目当てに開業する店もあるとか。なかなかうまくいかないものだ。

 男性も家にいる時間が増えるのだから、当然家事も男が担当する時間が増えると思っていた。

 ところが、ところがである。コロナ禍の前後で、家事・育児の時間に変化があったかを聞いた政府調査で、「大幅に増加した」と回答した割合は、男性が3.9%だったのに対し、女性は8.7%で倍以上。

 いったいどういうことなのだろう。今は専業主婦は少ないし、女性で責任ある地位で仕事をする人も増えている。全く仕事をしない女性などほぼいないといっていい。

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下重暁子

下重暁子

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

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