帯津良一(おびつ・りょういち)/帯津三敬病院名誉院長
帯津良一(おびつ・りょういち)/帯津三敬病院名誉院長

 西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「診察室でのこだわり」。

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【対等】ポイント

(1)60年も医者を続けると、診察室でこだわりが生まれる

(2)患者さんとはあくまで対等、戦友として寄り添う関係

(3)診察が済み、患者さんが立ち上がると、私も立ち上がる

 60年も医者を続けてくると、自分なりの診療のスタイルといったものが出来上がります。スタイルというよりは、診察室でのこだわりのようなものでしょうか。

 私のこだわりの一つ目は、患者さんを立って迎えるということです。椅子に座ったまま、「はい、どうぞ」といったことはしません。そういうのは、偉そうじゃないですか。普通、お客さんを迎えるのに、座ったままはないですよね。

 次に白衣は着ません。白衣は、汚れたものから自分の服を守るためという感じがあります。患者さんは決して汚れた存在ではありません。

 同様の理由から、私はコロナ下でも、診察室でマスクをつけませんでした。患者さんに対して、防御的になるのが、嫌なのです。医者であれば、マスクなしでも感染防止ができるはずです。病原体に対して専門家なのですから。

 次には「視診」「触診」「聴診」「打診」を必ず行います。学生時代に徹底的に教え込まれたこの四つは、いまでも診断の基本として重んじています。最近の医者はこれをしない人もいるようですが理解できません。

 顔の視診(眼瞼結膜や舌の視診を含む)、頸部の触診、胸背部の聴診と打診。腹部の触診、打診、聴診です。これらをしっかり行うことで多くの情報が得られます。

 実は、この四つの診断の意味に本当に気づいたのは、診療に中国医学を取り入れてからです。中国医学では「望診」(見る)、「聞診」(音、匂いを知る)、「問診」(話を聞く)、「切診」(さわる)の四つが基本の診断です。西洋医学と似ているのですが、違うのは、見ることを重視するところです。同じ見るでも、西洋医学では部分的な変化や異常に気づくことが大事です。ところが、中国医学では、本当に顔やからだ全体を見るのです。そこからその人の歪みに気づくのです。つまり、中国医学の方は人間をまるごと見るのです。私は中国医学を知ってから、本当の意味で患者さんを見ることの重要さを知りました。

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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