所属したユニットYURIMARIは、17歳のときに解散。その時点ではまだ、自身が俳優としてデビューできるとは思っていなかった。

アイドルを卒業してからは、舞台を積極的に観に行くようになりました。とくに、TPT(シアタープロジェクト・東京)という演劇集団が手がける舞台を初めて観たときは衝撃で、テレビや映画では、いろんなコンプライアンスがあって、制限がかかる表現を、舞台なら自由に発信できることがわかったんです」

 そうやって映画や舞台を貪るように観ていくうちに、「シンプルに楽しさをくれるエンターテインメントも好きだけど、私は特に社会に対して何かメッセージのあるものが好きなんだなぁ」と気づいた。自分は何が好きなのかに目覚めた頃、知り合いの映画の女性プロデューサーから、「映画のオーディションを受けてみたら?」と誘われた。

「いただいたチャンスは逃したくなくて、人生で初めてムキになった。それは、何事にも淡々としていた私が、一気に殻を破った瞬間だったと思います(笑)。お芝居は、自分一人に意識が向けばいいわけじゃなくて、周りと力を合わせないと成立しないですよね。最初に責任感が生まれて、そこから自分の役割のようなものを見いだして、なんとなく手応えを感じることができるようになったことも嬉しかったです。自分が役割を与えられて、それを果たせている実感を持てるようになれたことが」

 出世作となったのが、2007年に出演した、映画「パッチギ!」の続編である「パッチギ! LOVE&PEACE」。井筒和幸監督は彼女のことを、「沢尻エリカを蹴落とすことができる演技力を持つ逸材」と評した。その翌年、日本人脚本家が書き下ろし、外国人演出家が手がけた舞台「1945」で、舞台デビューを果たした。

 以来、だいたい年に1本のペースで舞台に出演しているが、その作品群をみると、あえて世の中に何かメッセージを投げかける作品を選んでいるように見える。

「そうですね。舞台では、毎回、『いい作品に参加できた!』という充実感がすごくあるので、規模とか予算とか話題性とか、そういった部分にとらわれずに、心から『やりたい!』と思える直感を大事にしながら、参加する作品を決めさせていただいています」

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(菊地陽子、構成/長沢明)

中村ゆり(なかむら・ゆり)/大阪府出身。2003年から女優として活動を始め「パッチギ! LOVE&PEACE」(07/井筒和幸監督)で全国映連賞女優賞、おおさかシネマフェスティバル新人賞を受賞。舞台の出演は「焼肉ドラゴン」「怒りをこめてふり返れ」「常陸坊海尊」「MISHIMA2020『真夏の死』(『summer remind』)」、主演を務めるドラマ「今夜はコの字で Season2」(BSテレ東・テレビ大阪)が4月9日から放送。

週刊朝日  2022年3月25日号より抜粋