日本に住むウクライナ人の女性神職が、平和への願いを込めて記す御朱印が話題になっている。母国にいる友人らと連絡が取れず、無事を祈り続けている。
【写真】英語とウクライナ語で「ウクライナとともに」などと書かれた御朱印
埼玉県北部、群馬県と隣り合わせの上里町帯刀(たてわき)に、菅原道真をまつり、903年に創建された古社・菅原神社がある。ここで権禰宜(ごんねぎ・職員)を務める梅林テチャナさん(39)は、ウクライナ西部のザカルパチア州ラヒフの出身だ。
「8年前のクリミア侵攻以来、私は、いつかロシアが攻めてくると思っていました。でも実際に戦争が始まってしまうと、とてもショックですし、恐怖と悲しみしかありません」
テチャナさんの両親と弟は15年ほど前にチェコに移住。ポーランド人と結婚した姉も国境を接するポーランド在住だ。だが、故郷には親戚がたくさんいる。
「侵攻が始まった2月24日、何人かの親戚に連絡はつきました。でも叔母は『ルーマニアへ逃げたいが、国境まで道路が大渋滞していて身動きが取れない』と。キエフに住む学生時代の友人知人とは連絡が取れていません。多分、市内の地下シェルターに避難しているんじゃないでしょうか。無事を願うばかりです」
夫で禰宜の梅林正樹さん(49)は、同神社の宮司の長男。大学時代にロシア民俗学に関心があり、1999年にキエフ国立大学へ留学した。その後、同大学の日本語講座の講師になり、2004年に、当時、文学部3年生のテチャナさんと出会った。テチャナさんは09年10月、結婚のため来日した。
「歴史をひもとくと、『ロシアのルーツは、中世のキエフ(公国)にあり』と言われるほど両国の結びつきは古く、ロシア人とウクライナ人は兄弟のような関係です。両親がウクライナ人とロシア人という家庭は両国にもたくさんありますし、それぞれの親戚も大勢います。もちろん、友人知人も。それだけに一般市民は複雑な思いを抱いているでしょうね」(正樹さん)
「情報統制が厳しいロシアでは、ほとんどの国民はウクライナと戦争をしていることを知らないのではないでしょうか? せいぜい、ウクライナ東部のドンバス地方で小競り合いをしている、くらいの認識だと思います」(テチャナさん)