額を決められない場合は、財産の「○分の1」「半分」といった具合に割合で示してもよい。このように、遺言で寄付の金額などを割合で示す遺贈が「包括遺贈」。これに対し、具体額などを示す遺贈を「特定遺贈」と言う。

(週刊朝日2021年12月3日号より)
(週刊朝日2021年12月3日号より)

 山北さんによれば、不動産を寄付したい場合や、包括遺贈のケースは要注意だ。

 不動産の場合、団体が価値を感じられる土地ならいいが、そうでないと現金化に手間や時間がかかる。名義が変更されていなかったり、不便な土地だったりすれば売るのが難しいケースもある。こうした事情から不動産の受け入れに消極的な団体もあり、寄付が実現しないこともある。

 また包括遺贈の場合、土地を売った時に得られた利益にかかる所得税や住民税(「みなし譲渡課税」)は、寄付を受けた側が負担しなければならない点もネックになっている。負担せずに済む方法もあるが、一定の条件や手続きがいる。

 スムーズに寄付が実現できるよう、不動産の寄付や包括遺贈を検討する際は、寄付先や、弁護士や司法書士といった専門家にあらかじめ相談することをおすすめする。

 もうひとつ気になる点として、知名度の高い団体の名をかたったり、活動実態がないのに具体的な取り組みがあるかのように装ったりして、寄付を呼びかける例も一部でみられる、と複数の関係者から聞いた。

 コツコツ築いた虎の子の財産を、怪しげな団体に取られてはかなわない。少しでも疑問を感じたら直接問い合わせ、専門家に相談しよう。

 いろいろ注意点を書き連ねると、面倒に感じる人もいるかもしれない。

 だが、日本承継寄付協会代表理事の三浦美樹さんは「遺贈寄付はわかりやすく、シンプルに社会を変えられる手段」と強調する。

「遺贈寄付を『お金持ちがするもの』と思う人は多いですが、誰でもできます。寄付を受ける側にとって、たとえ1万円でも3万円でも、寄付してもらえればうれしいはず。遠慮はいりません。何もしなければ、財産は配偶者や子どもら相続人のもとへ移るだけですが、本人の気持ちしだいで、孫やひ孫ら、将来の世代や離れた国や地域のために役立ててもらえる。人生でたった一回のチャンス。財産をどう残すか、じっくり考えてほしい」

 三浦さんによれば、財産の行方がはっきりすると、残りの人生にハリが出るケースは多い。人生最後の社会貢献、ぜひ検討してみては。(本誌・池田正史)

週刊朝日  2021年12月3日号より抜粋

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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