(週刊朝日2021年11月26日号より)
(週刊朝日2021年11月26日号より)

 おくむらメモリークリニック(岐阜県岐南町)の「もの忘れ外来」にも、最近、スマホの使いすぎが原因とみられるシニアの相談が増えている。理事長で脳神経外科医の奥村歩さんは、スマホの使いすぎで脳過労が進み、認知機能が低下する症状を「スマホ認知症」と呼んで注意を呼びかける。

「症状が進むと、もの忘れや一時的な記憶障害といった症状が出る場合があります。シニアの場合、そのまま放っておくと認知症のリスクを高める可能性もある」

 奥村さんによると、脳の記憶のメカニズムは、大きく三つの段階に分けられる。(1)目や耳などから得た情報を脳に入力する、(2)入力した情報を整理する、(3)整理した情報を取り出して言葉にする──の三つだ。

 ところが脳過労の状態になると、情報をうまく整理したり、取り出したりすることができなくなる。奥村さんは続ける。

「この三つの段階は、同時並行的にはできません。情報をきちんと整理するためには、入力したり、取り出したりする作業を休ませることも大事。ぼうっとしたり、眠ったりする時間も必要です。スマホを通じて絶えず多くの情報を浴びていると、脳の中は“ゴミ屋敷”のような状態になってしまいます。肝心なときに必要な情報を取り出せず、もの忘れや勘違いが起こりやすくなる。会話やコミュニケーションが上手にできなくなることもあります」

 スマホの使いすぎは目にも悪い。二本松眼科病院(東京都江戸川区)副院長で眼科医の平松類さんはこう言う。

「スマホを見ている間は、通常時に比べ、まばたきの回数が3分の1~4分の1に減り、目が乾く『ドライアイ』になりやすい。コロナでスマホなどのデジタル機器を扱う時間が急に増え、シニアの患者も目立つようになりました。ドライアイが進むと眼精疲労になり、モノが見えにくくなる。放っておけば、肩こりや全身疲労といった症状が出やすくなります」

 スマホの使いすぎで、失明の原因にもなる黄斑変性や緑内障の症状が進む可能性も指摘されている。平松さんは言う。

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