西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「ゆずれないこと」。

帯津良一(おびつ・りょういち)/帯津三敬病院名誉院長
帯津良一(おびつ・りょういち)/帯津三敬病院名誉院長

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【手術】ポイント
(1)生きていく上でゆずれないことは、ほとんどない
(2)でも手術には、決してゆずれないこだわりがあった
(3)手術に対し全力投球だったからこそ、限界を知った

 生きていく上でゆずれないことは、ほとんどないのではないかと思っています。ですから私は、大抵のことは「まあ、いいか」ですませてしまうのです。都立駒込病院に勤務した頃は、看護師さんたちに「仏のおびっちゃん」と呼ばれていました。文句を言うことがほとんどないからです。

 でも、こういう私にも決してゆずることのできないこだわりがありました。それは手術に対してです。ひと様の身体にメスを入れるのです。最小の侵襲にして、最大の効果をあげなければいけません。手術については、毎回、妥協なく真剣に立ち向かっていました。

 まず前日に必ず解剖の教科書を開きます。すでに自家薬籠中のものになっているのですが、念には念を入れるのです。そして、その日の晩酌は自宅ですませ、午後10時に就寝。翌日は午前6時に家を出て、病院の近くの食堂で軽く朝食をとってから、午前7時半に病院に入ります。

 そのまま病棟に直行して受け持ちの患者さんの状態を把握した後、手術を受ける患者さんに会って「心配はいりません。すべてうまくいきます」と元気づけます。そして患者さんより早く手術室の控室に入り、ベストコンディションに自分自身を持っていくのです。

 手術では、切除範囲が適正であることはもちろん、加えて時間を短くすること、出血量を少なくすることに鋭意努力しました。でも私が専門としていた食道がんは、胸、腹、頸部を切開する大手術なので、術後はかならず集中治療室(ICU)に入ることになりました。

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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