延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)
延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)

 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は911について。

【写真】アメリカ同時多発テロの追悼式典で、亡くなった夫の思い出を語る女性

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 あれから20年が経った。日本人24人を含む2977人が犠牲となったアメリカ同時多発テロの追悼式典がNYで開かれ、ダーク・スーツのブルース・スプリングスティーンが「アイル・シー・ユー・イン・マイ・ドリームズ」を弾き語りした。彼は演奏前にこう語りかけた。「命を失くした兄弟姉妹とその家族、友人に神の祝福がありますように」

 秋空に星条旗がゆっくりはためき、市民は肩を抱き合い、すすり泣く人もいた。そこにはバイデン・アメリカ大統領夫妻、オバマ元大統領夫妻の姿もあった。

追悼式典で、亡くなった夫の思い出を語る女性 (c)朝日新聞社
追悼式典で、亡くなった夫の思い出を語る女性 (c)朝日新聞社

 2001年9月11日の午後、僕は開園したばかりの舞浜のディズニーシーを取材していた。局に戻る車中、知らせが入った。当初セスナ機がぶつかったという話もあった。報道フロアに出向くと、通信社から入電した内容も「WTC(ワールドトレードセンター)に旅客機が激突した」くらいの2、3行しかなく、テロなのか事故なのか判然としなかった。

 ただ、飛行機のアクシデントであるのは間違いなく、編成、営業と連絡を取り、午前零時からの「ジェットストリーム」を休止とし、緊急報道特番となった。

 スタッフが続々集結、手分けしてアメリカ大使館や首相官邸、外務省などに取材を入れ、「テロ」だとわかってきた。

 テレビ画面に映された衝撃の映像に、ついさっきまでディズニーの、最もアメリカ的なファンタジーワールドを取材していたのに、その真逆、暗黒の殺戮世界が展開されていることに愕然とした。

 首謀者はビンラディン? ファーストネームはウサマなのかオサマと読むのか? アメリカが攻撃されたなら、友好国の日本も危ないのではないか。

 都心にあるこの局も標的になるのでは!? そんなことを思いながら生放送を運行、ガクガク膝が震えたという女性ディレクターが振り返る。「タイタニック号で船が沈んでいく中で、最後まで演奏していたオーケストラの一員のような気持ちでした」

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延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

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