「本の中に人名が出てくると、フィクションの人のようにも読めるのが、書いていて面白かったです。最初から小説として書いていたら、こんなに書き込めなかったし、唐突に出てくる人たちがいたりするのも、日記という形式がベースにあったからです」

 ドキドキさせられるのは、<妻>が講談社に直談判に行く場面だ。自身が登場するこの連載を読んだ妻が、怒りを抑えられなくなっての行動だ。

「ハハハ。あれは実話じゃないです」

 それを聞いて記者は安堵したが、作家を家族に持つ人が、書かれたことにモヤモヤする心情が細やかに描かれている。

「エッセイから始まったという成り立ちゆえに、そこに妻や友人が出てくる暴力性みたいなものは感じていました。何かしらそのことを書こうと思い、ああいう展開になったんですけど、そこは書き手としての微妙な謀(はかりごと)でもあります」

(朝山実)

週刊朝日  2021年9月17日号