国会で新型コロナの感染拡大について答弁する政府分科会の尾身茂会長 (c)朝日新聞社
国会で新型コロナの感染拡大について答弁する政府分科会の尾身茂会長 (c)朝日新聞社
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(週刊朝日2021年6月18日号より)
(週刊朝日2021年6月18日号より)

 あくまで開催に向けて突き進む政府だが、何より気がかりなのは、感染拡大のリスクだろう。

【五輪期間中の新規感染者数予測はこちら】

 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は6月2日、参院厚生労働委員会で東京五輪・パラリンピックの開催について問われ、「今の状況でやるのは普通はない」と答弁した。

 政府に助言する立場の専門家が「五輪中止」に踏み込んだのは異例のこと。しかも、追い打ちをかけるようにこんな注文もつけた。

「そもそも、こういう状況の中でオリンピックを何のためにやるのか。それがちょっと明らかになっていない」

「安全・安心な大会」を掲げて開催に猛進する菅義偉首相に、国会の場で冷や水をかけた格好だ。ある官邸関係者は言う。

「菅首相は大会開催の意思を変えていないが、五輪反対論の高まりに風向きが変わりつつある」

 それも無理もないことだ。たしかに、第4波のピーク時に比べると感染者数は減った。だが、東京都では10万人あたりの療養者数などの指標はステージ4(感染爆発段階)のまま。大会期間中に第5波が来てもおかしくない。

 そのことは、専門家によるシミュレーションでも明らかになっている。

 東京大学大学院経済学研究科の仲田泰祐准教授らが、今後の東京都のコロナ新規感染者数を予測した。

 試算では、6月中旬に緊急事態宣言を解除すると前提を設けた。そのうえで、ワクチンの接種が日本全国で週420万回の「基本見通し」と、週700万回の「希望見通し」の2通りのケースを想定した。仲田氏は言う。

「緊急事態宣言の解除によって人の流れが徐々に戻り、人流が増えれば、感染者数も増えます。そのため、ワクチンの効果が出て感染者数が減るのは、希望見通しでも9月以降になる可能性があります」

 東京五輪は7月23日~8月8日、東京パラリンピックは8月24日~9月5日の期間で開催される。現在の接種ペースでは、ワクチンの効果は間に合わない可能性が高い。

 これだけではない。大会が開催されれば、人の動きが活発になることが予想される。参加する選手の数は約1万5千人、選手以外の大会関係者の来日は約8万人になる見込みだ。

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