人間の運命は本当にわかりません。僕の宿命は郵便屋さんになることなのに、運命が絵の方に持っていってしまったのです。だけどですね。これが結局僕の中の魂が求めていたことだったのかも知れません。上京してデザイナーになった頃、周囲はインテリばかりで、難しいことばかり言う人種だらけでした。世間ではデザインで評価されていましたが、本心はデザインなんてちっとも面白くなかったのです。でも描くと面白がってくれるアングラのお兄さん達が結構いて、いつの間にかそんなわけのわからぬ人種の仲間入りです。この連中も変り者が多いくせに難しいことを言うのが好きでした。僕は、そんな会話に興味なかったので、いつも沈黙でした。彼等は、何もしゃべらない僕が神秘的か不気味に見えたのか、色んなところに引っぱり出されました。人生なんていい加減なもので、それらしくしていると、それらしく見えて、それらしくなっていくものです。新種の珍獣に見えたんじゃないでしょうか。その結果が今です。これから先の人生も、何が起こるか楽しみです。セトウチさんの百歳目指して、それを越えましょう。では。

■瀬戸内寂聴「才能不滅! 才能万歳!」

 ヨコオさんへ

「これから先の人生も、何が起こるか楽しみです。」と結ばれた今回のお便りを拝見して、ヨコオさんは凄いなあ!と感心しました。だってヨコオさんは、もう八十五歳でしょう。これから先といってもね。

 十四歳年長の私は、何と来月で九十九歳。寂庵では二言目には「百だもの!」とスタッフたち。

 私が二言目には「ああ、しんどい!」と言っても、「百だもの」とすましています。

 私がものを忘れてうろうろしても、「だって百だもの!」。体調の悪さも、時々転んでけがをしても、「だって、百だもの!」。

 締め切りに、仕事が間に合いかねても「百だもの」と平然。

 百前には、もうこれ以上、珍しいことも起きるまいと思っていたのに、百になるやならずで、コロナが押し寄せ、国中にマスクをかけた人間が沸き起こり、連日、コロナに感染した人間の数が報告されています。

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