篠田さん自身も「自分がこの仕事に就いてるからこそできることはなにか」「困っている人を楽しませるだけではなく、元気付けることに目線を置いて力になれることはないか」と考えていた。

 そして、AKBメンバーによる最初の被災地訪問が決まると、参加を希望し、手を挙げた。

 5月22日、大島優子さん、柏木由紀さん、指原莉乃さん、松井玲奈さん、山本彩さんら他のメンバーとともに、岩手県沿岸部の大槌町と山田町に向かった。新幹線で北上市まで行き、そこからバスで山を越えて、目的地の両町を目指した。途中、崖崩れや道路の破損などもあったが、海岸が見えてくると様相が一変した。町があったであろう場所は津波で根こそぎさらわれていた。

「予想以上の惨状に、誰も声を出せなかったことを今でもはっきりと覚えています」

 その年、「誰かのために」の活動を続けながら被災地のニュースを見るたびに、複雑な気持ちも抱いていたという。

「3月11日には私にとって生まれた日だけれども素直に喜べない。喜んでもいいのだろうか?」

 それを察した母・光子さんから、こんなメールがきた。

「3月11日に生まれたことを誇りに思いなさい。あなただからこそ、できることがある」

 重かった気分がスッと軽くなった。

「私だからできること。それはこの日を忘れずに、亡くなられた方を追悼したり、大災害の危険についてずっと発信したりし続けること」

 東日本大震災から1年が経った誕生日のブログにはこうつづった。

「この一年私にとってもすごく考えさせられました。でもこれは私の生涯の使命です。神様に指名されて、世の中の役に立てと言われているような気がします。この日に生まれたことに誇りを持ちます」

 篠田さんは13年7月にグループを卒業するまで計5回、被災地を訪問し
た。

「毎回、元気づけなきゃ、と思って行くのですが、『待ってたよ』『ありがとう』と満面の笑みをいただき、いつも私たちが元気や勇気をもらって帰ってくる。その繰り返しでした」

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家族ができて防災の意識が高まった