林:NHKをやめてフリーになって、民放の情報番組のMCをなさったんですね。

下重:あのころ、民放は歴史が浅く、NHKのアナウンサーが重用されて、民放が買いに来たのよ。情報番組の司会者とかを。女では野際陽子さんが1号で、私が2号なんです。

林:女子アナウンサーの先駆者ですよね。

下重:そうしながら少しずつ書くほうを増やしていって、やっとこさ70歳近くなってどうにかベストセラーが出て、人さまにも「あの人はものを書く人なんだ」とわかっていただけたんです。

林:同人誌仲間の黒田夏子さんが芥川賞をおとりになったときに、下重さんすごく喜んでましたね。

下重:すっごくうれしかった。

林:作家って嫉妬深いから、仲間が自分より先に芥川賞をとったら、「チッ」て私なんかは思うのに、こんなに仲間の活躍を喜ぶなんて、なんて大らかな方なんだろうと思いました。

下重:黒田さんだからよ。黒田さんは早稲田大学の同級生で、一緒に同人誌をやってたんです。私は「詩を書くね」とか言いながらなんにもやらないで、人の批評ばっかりしてたんだけど、黒田さんは長い長い難しい小説をそのころから書いてたんです。

林:芥川賞の作品もすごく難しかった。

下重:彼女は料亭の事務とかをしながら、どこにも発表しない文章をひたすら書き続けてたんです。私にはそれを送ってくれてたんですけど、長い長い小説で、読むのが大変なの。それをず~っと続けて75歳で芥川賞をとったわけでしょ。私にはできない。それだけ一筋というのはほんとに尊敬します。

(構成/本誌・松岡かすみ 編集協力/一木俊雄)

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/1936年、栃木県生まれ。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。アナウンサーとして活躍後フリーとなり、民放キャスターを経て文筆活動に入る。公益財団法人JKA(旧・日本自転車振興会)会長などを歴任。現在、日本ペンクラブ副会長、日本旅行作家協会会長。著書に『家族という病』(幻冬舎新書)、『人間の品性』(新潮新書)、『鋼の女 最後の瞽女(ごぜ)・小林ハル』(集英社文庫)など多数。近著に『明日死んでもいいための44のレッスン』(幻冬舎新書)。

>>【後編/下重暁子「『死ぬときは死ぬがよろし』って最高じゃないですか」】へ続く

週刊朝日  2021年2月26日号より抜粋