『親の介護をしないとダメですか?』の著者で、2年前に父親を特養に入れた吉田潮さんは、自分で父親が喜びそうなことをしてあげているという。

「今はコロナでできないけれど、熱い湯でホットタオルを作って体に当ててあげると、すごくいい顔になる。なるべく『快』の時間を作ってあげるのが良いと思います」

 コロナが収束して面会できるようになったら、両親にしてあげたいと思う。

 入所した両親は、もう自宅に戻ってこないかもしれない。だが、介護や入所準備に追われ、相続のことなど大事な話はほとんどしてこなかった。

 ただ一度、入所前夜に母からこんな話があった。

「株券はあなたにあげたい。ここに資料があるので名義を変更しておいて」

 でも、指をさした棚の中には封筒しかなかった。整理整頓が苦手だったためか、認知症のためか。入所前に遺言書を作ってもらうべきだったと悔いた。

 弁護士の小堀球美子さんに尋ねると、

「入所したとしても、認知症であったとしても、遺言書が作れないということはありません」

 どう進めればいいのか。

「理想は公正証書遺言。公証役場に相談して公証人に施設に来てもらいます。すぐには来ないので、不安な人は(全文を自分で書く)自筆証書遺言を残しましょう。公証人が来たら、あとは当事者の希望を伝えるのみ。公証人が本人に認知能力を確認するテストをしますが、簡単なもの。名前や誕生日などがきちんと言えれば、大丈夫です」

 もちろん、自筆証書遺言だけでもかまわない。家庭裁判所で検認を受ける必要があるもののハードルは低く、メモのようなものでもないよりあったほうがいいという。ただ、日付と署名、印鑑(認め印、母印でも可)は必須だ。親が書くのを嫌がっても、紙切れ一枚を差し出して「ここに書いて」と言えば、案外うまくいくかもしれない。

「自筆証書遺言の場合、書き損じがあれば書き直さなくてはなりません。複雑だったり長文だったりする場合は、誰かが見本を書き、それを書き写すような形にすればスムーズにいくと思います」

 親が遺言書を残した証拠として、書いている姿を写真や動画で撮っておくのもいいという。

 小堀さんはこう語る。

「書いてもらったら面倒を一生みるぐらいの覚悟を持つのがいいでしょう」

(本誌・大崎百紀)

週刊朝日  2020年11月6日号より抜粋