竹内結子さん(C)朝日新聞社
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桜井さんの小説『サーフ・スプラッシュ』(幻冬舎文庫)
桜井さんの小説『サーフ・スプラッシュ』(幻冬舎文庫)

 9月27日未明、女優・竹内結子さんが40歳の若さでこの世を去った。

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 まだ10代だった竹内さんと作品を通じて交流を持った作家の桜井亜美さんが、訃報を受け、重い口を開いた。

「訃報を聞いて、頭が真っ白になりました。最近はメディアを通してご活躍を拝見していて、お子さんも産まれたばかりし、理解者にも出会って、幸せになったのだと信じていました。最初に思い出したのが、あの文章です。今までにこんなに結子ちゃんが自分をさらけ出した文は他になかったんだということに初めて気づいて、自分を責めました。本当に今、辛いです」

 桜井さんが言う「あの文章」とは、1999年に発売された桜井さんの小説『サーフ・スプラッシュ』(幻冬舎文庫)の巻末にある解説文のこと。桜井さんの依頼により、竹内さんが執筆した。当時、竹内さんはまだ19歳。高校を卒業し、都内で一人暮らしを始めて1年が経とうとするころ、胸の内をこうつづっていた。

《いつになったら大人になったというのだろう。
そんな思いに耽っていると、ふと高校の教室にいた私が見えた。机に両肘をついて黒板を眺めている。見た目からして、騒がず目立たずといった具合で、どこか冷めたところがあった。まるでスーパーの棚に陳列されている缶詰みたいに、外の空気と別の世界を夢見ていた。だから卒業式は自分がどこか新しい所へ行ける気がしてとても嬉しかった。》

 この解説文を依頼したきっかけは、桜井さんの小説を原作にした映画『イノセントワールド』(1998年)に竹内さんが主演したこと。当時17歳の竹内さんにとって、初の主演作となった映画だ。撮影の現場で顔を合わせた桜井さんは、竹内さんの純真さに引き込まれたという。

「結子ちゃんは、ものすごく瞳がきれいでキラキラとした、とても可愛らしい子でした。原作は、体外受精で産まれた主人公の女子高生アミが、複雑な家庭事情から、知的障害を持つ兄と一緒に家出をする仄暗い物語。なので、こんなに輝いている新人女優に、ヘビーな境遇のヒロインを当ててもいいのだろうかと思っていました。ですが、結子ちゃんはアミにすごくシンクロしてくれて、『みんなに、私はアミだって言われるんです』と言ってくれました。新人女優と原作者という関係でも、空気を読んで自分を取り繕ったり、言葉を飾ることを彼女はしなかった。この時に出会った結子ちゃんは、とてもピュアでした。ありのままの姿で私と接してくれて、なんて良い子なんだろうと思いましたし、私の分身のアミに共感してくれたことで、勝手に分身のようにも感じました」

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「作家やエッセイスト以上の表現力」と感じた